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2018.05.30コラム
トレーニングのセット「内」レストピリオド

トレーニングのセット「内」レストピリオド

◆セット内レストピリオドとは

 トレーニングプログラムの目的や条件に応じて、コーチはさまざまなプログラム変数を操作する必要があることはこのコーナーでも度々強調していることですが、見落とされがちで管理の難しいプログラム変数にレストピリオドがあります。なかでもセット「内」レストピリオドは通常のレストピリオドと異なり、その概念も新しく、まだ十分理解されていないため、多くのトレーニングにおいてコントロールされないままになっているようです。

 ストレングストレーニングにおけるセット内レストピリオドとは、セットとセットの間、あるいは個々のエクササイズの間に取る休息時間を意味する通常のレストピリオドとは異なり、1セットを構成するレップとレップの間、すなわち1挙上動作ごとの休息時間を意味します。スクワットで言えば、沈み込んで立ち上がるという一回の動作後、次の沈み込みを開始するまでの時間です。リフティングによってはエクササイズ動作のコンセントリック局面の終了から次の動作のエクセントリック局面が開始されるまでの時間と言い換えてもいいでしょう。これをどれだけの長さに設定するかがトレーニングプログラムの変数となるわけです。

 

◆セット内レストピリオドと挙上速度

 砲丸投げと円盤投げの選手やベンチプレスのナショナルチャンピオンを含むスポーツ選手と体育専攻学生50名に対して、1RMの30%~70%のウエイトを可能な限り高速で10レップス挙上するようにと指示したベンチプレスエクササイズの挙上スピードに対するセット内レストピリオドの影響を調べた研究があります(Tidow, 1995)。

 実験では、0秒(通常行われているリズミカルなリフィティング)から15秒まで3秒間隔で6種類のセット内レストピリオドが用いられました。

 70%負荷を用いてセット内レストピリオドを通常のリズミカルなリフティングと同じように行った場合、10レップ目の挙上に要する時間が1レップ目の2倍にまで延長していることが明らかになりました。これは挙上速度では50%の低下に相当します。そしてこのリズミカルなリフティングでは、1RMの50%負荷を用いた時でさえ、1レップ目に示された最短挙上時間の5%以内の遅延で挙上できたのは最初の3レップスだけであり、後は直線的に遅延し、10レップ目には27%も遅くなりました。

 この実験データによると、1RMの50%負荷を用いた場合、挙上速度の低下率が5%以内にとどまるのは、セット内レストピリオドを3秒や6秒にまで延長しても最初の4レップ目まで、9秒でも6レップ目までであり、12秒にすると7レップ目までが5%以内の遅延に押さえられていました。

 以上から、セット内レストピリオドを意図的にコントロールせずに通常のリズミカルな方法で行うように放置したままでは、選手に意図的に挙上速度を速く維持するように指示したとしても挙上速度は必然的に低下してしまうと考えられます。

 しかも先の研究では速筋腺維の占める割合の多い選手においてこうした傾向が強くなることが示唆されています。

 

◆エクササイズ速度と筋腺維タイプ

 セット内レストピリオドへの着目それ自体は新しいことではなく、ほぼ1RMに相当する高負荷を1レップ毎に10~15秒ほどのレストピリオドを置いて反復するという「レスト‐ポーズシステム」(Fleck & Kraemer, 1987)が以前から知られています。しかし、これが最大挙上重量を向上させる目的で実施されるのに対して、今回紹介したアイデアは、最大下の負荷を用いて複数回の爆発的なリフティングを連続しておこなわせつつ、挙上速度の低下を防止し、セットの最後のレップまで、その重量で発揮可能な最大速度でトレーニングさせようとするのです。 

 こうしたトレーニング方法が発想されるのには、筋肥大および最大筋力向上の目的で行われる高強度エクササイズによって、タイプⅡb筋腺維のタイプⅡaへの移行という事実(Staron et al., 19991: 1994)が背後にあります。筋肥大および筋力向上と同時に、タイプⅡb筋腺維が消失しタイプⅡaに移行するため、筋収縮速度の低下が起こるのではないか、そしてそれを最大挙上速度でおこなわれる爆発的筋力トレーニングによって食い止めることが可能ではないかと仮説されているのです(Tidow, 1994: Delecluse, 1997)。この爆発的筋力トレーニングの1セットごとの全レップスにわたる最高速挙上を可能にするのがセット内レストピリオドのコントロールにあるというわけです。まだ仮説の域を出ませんが、エクササイズのセット内レストピリオドを長く取ることによって速筋腺維が選択的に動員されやすくなるとする考えもあります(Posiquin, 1998)。

 このあたりのメカニズムは置いておくとしても、セット内レストピリオドのコントロールによって動作スピードを維持するための条件を整えることに加えて、実際の動作速度を常にモニターし選手に即時フィードバックすることによって速度の低下を防ぐ工夫がなされるならばより効果的であるといえるでしょう。そのための簡易な装置はすでに開発され、一部の選手のトレーニングにも利用されはじめています。