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2018.05.30コラム
トレーニングの成果の測定-妥当性と信頼性-

トレーニング成果の測定 -妥当性と信頼性-

◆ストレングス&コンディショニングトレーニングの成果とは?

 ストレングス&コンディショニングにかかわるトレーニングの成果は、必ずしも「勝った・負けた」や試合成績が向上したかどうかでただちに評価されるべきではありません。ワールドクラスのスプリンターによる40メートルスプリントの記録をその選手のトレーニング期間の5ヶ月間にわたってフォローアップしたデータ(Delcluse,  et al. 1995)からもそのことが明らかです。この研究によると、スタート直後の10メートル地点での加速度と40メートルまでに到達される最高速度はトレーニング期間中それぞれ独立して変動し、一方が向上しても、他方が低下するというように、両者が常に同期して向上するものではないことが示されています。スプリントタイムそれ自体は両者がともに向上するか、あるいは他方の低下をもう一方が大きく補うだけの向上を示さなければ達成されません。あるトレーニングの効果がパフォーマンスを構成しているある部分にはちゃんと現れていても、そのことが全体としてのパフォーマンスの向上にはなかなか直結しないということを示すよい例です。
 このような、トレーニングで強調されたポイントとそれに対する生体の反応が、特異的にしかも時間的にずれて生じるという遅発性の転換とか遅発性の変性効果(Zatsiorsky,1995)と言われている現象の実体解明にはまだまだ時間がかかりそうですから、綿密に計画されたプログラムに基づくものであったとしても、ストレングスとコンディショニングのトレーニングの成果は、競技成績そのものから判断できる段階ではないと言えます。
 では、何によってトレーニングの成果を問えばよいのでしょうか? 
 障害予防としての価値をストレングストレーニングやコンディショニングトレーニングを導入する意義として筆者も強調することがありますが、トレーニングの導入でケガが減ったという話を聞く一方で、以前よりケガが増えたとか、少しのケガで休む選手が多くなって困っているという指導者の声を聞くことも少なくありません。
 トレーニングの成果を何らかの方法で測定し評価するためには、まず、測定する項目が、知りたいトレーニングの成果を適切に反映しているかどうかを考慮しなくてはなりません。

 

◆測定・評価項目の妥当性

 その方法のひとつは、先の10メートル地点での加速度や最高速度のように、部分的にではあっても明らかにパフォーマンスを規定する指標による方法です。全体としてのパフォーマンスを部分に分けてその部分の値がどう変化したかを測定するのです。
 もうひとつが、競技成績と相関が高いということが明らかにされているフィールドテストの結果を見る方法です。例えば、NCAAディヴィジョンIネブラスカ大学のアメリカンフットボールチームでは、10ヤードスプリント、40ヤードスプリント、プロアジリティーランと呼ばれる敏捷性テスト、垂直跳びがフットボール選手としての能力と相関が高いとしてトレーニングの成果をこの測定によって判断しています(Arthur, 1998)。同じくNCAAディヴィジョンIのコネティカット大学男子バスケットボールチームの4年間に渡る公式ゲームでの選手のプレー時間と相関の高かったテスト項目は、垂直跳び、27mスプリント、T-テストそして1RMスクワットであり、反対に2414m持久走や1RMベンチプレスはプレー時間とは有意な関係にありませんでした(Hoffman et al. 1996)。
 このように、競技成績や選手の能力に関係が深い指標が明らかになればその値がどれだけ向上したかによってトレーニングの成果を評価することが可能となるのです。
 障害やケガの件数の増減だけで評価することも間違っています。障害の件数は、まず、トレーニング回数と試合回数の総合計に対する発生の割合として算出されなければなりません。そして通常1000回に対する件数として数値化されます。基準となるデータがあればそれらと比較する必要があります。さらにはトレーニング総時間、時間帯、グラウンドやコートの材質と状態が障害の内容および件数とどのような関係にあったかを検討する必要があります。

 

◆測定・評価の信頼性

次に重要となるのが測定データの信頼性です。プレテストは乾いた土のグラウンド、ポストテストは雨上がりの緩んだグラウンドといった条件では正確なデータを得ることはまず不可能です。スクワット動作も腰をどこまで下ろすかによって1RMは大きく異なります。測定の順序や選手のコンディションも大きく影響します。測定方法も信頼の得られるデータを採るためにはいい加減にはできません。垂直跳びやアジリティー、スプリントなど、可能なかぎり測定誤差が入らない機器を用いることが絶対に重要となります。最近は安くて簡便なものがありますのでそれらを数チームが共同で利用することも考えてよいと思います。
 競技成績の一部を正確に反映した妥当性の高い測定項目のデータを、できる限り信頼性のある方法で確実に収集し提示することがトレーニングの成果を判断する最も適切な方法であると言えるでしょう。