ニーズ分析(3) | S&Cスポーツ科学計測テクノロジー スポーツパフォーマンス分析

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2018.05.30コラム
ニーズ分析(3)

ニーズ分析(3)

ニーズ分析(3)

◆スポーツ医学的特性の分析
 対象とするスポーツ種目や作業活動においてどのような身体的特性が必要とされているのかという疑問に答えるために行う競技・活動分析のうち、前回までに説明してきたバイオメカニクス的分析、生理学的分析に引き続いて、今回はスポーツ医学的分析の必要性と意義および留意点について解説しよう。

◆スポーツ外傷・障害とストレングス&コンディショニング

 一般にスポーツ選手に対して筋力トレーニングを薦める理由のひとつとして、パフォーマンスの向上と並んでスポーツ外傷と障害の予防ということが謳われている。また労働活動や日常生活に対するトレーニングの意義に関してはパフォーマンス向上よりもむしろ外傷や障害の予防効果に強調点が置かれている事が多い。

 筋力トレーニングを行えば本当にスポーツやその他の身体活動における外傷・障害の発生が予防できるのか?もしこう聞かれたら答えは明らかにNOだ。スポーツや労働で外傷や障害が発生する原因は筋力トレーニングを行わない事よりも、特定部位の酷使(オーバーユース)、休養不足状態での高強度・多量負荷(オーバートレーニング)、ウォーム・アップ不足、クール・ダウンを含めた回復措置の不足、不適切なトレーニング内容、テクニック(スキル)上の問題、施設・道具・用具の問題、栄養の不足と片寄り、自分のレベル以上の対象(相手や自然)への無謀なチャレンジ、競技ルール、アラインメント、身体バランス、持久力、本人の性格によるもののほうが圧倒的である。これらの諸要因がきちんとコントロールされない限り、筋力トレーニングによって障害が予防できるとは決して言う事ができない。これらのコンディショニング全般にかかわるトレーニング・プログラムや日常的な処置が適切に実行されることを前提としても、筋力トレーニングは外傷や障害を完全に予防するというよりも、発生頻度とその程度を下げることができると考えるべきである。 ストレングス&コンディショニングというのはあくまでストレングスという筋力にかかわる機能を中心にしつつも、コンディショニング全般に対するトレーニングとケアの領域を意味する言葉である。したがって、スポーツ外傷と障害予防に対する立場としては、特定筋群の筋力強化のためのトレーニングに限定するのではなく、適切なウォーム・アップとクール・ダウン、マッサージや体操などの積極的な回復措置の方法、各種ストレッチングによる柔軟性の向上、持久力や身体バランス(筋力バランスと姿勢のコントロール)の向上、栄養指導、メンタル面を対象とし、さらには身体の使い方にかかわるテクニック上の問題からも総合的にアプローチする事になる。ただし、このうち何に重点を置くべきか、どこまでを自分の守備範囲とするか、これらを一人で行うかチームで行うかという問題はまた別に検討されなければならない。


◆外傷・障害予防の観点から見たニーズ分析

 以上の事からニーズ分析においてスポーツ医学的な活動分析を行う理由は、ただ単にストレングス・トレーニングの目的に障害予防を掲げ、統計的に障害発生率の高い関節や筋群を調べて、その関節部位や筋群を含む一般的な種目をプログラムに羅列するためではないことが理解されたと思う。プログラム・デザインとの関係でスポーツ医学的分析を行う本来の理由は、対象とするスポーツや活動においてどのような外傷や障害がいかなる理由で発生しているかを探り、発生の可能性を少しでも減らすために最も効果的な手段が何かを見極めるためである。これを行わずに障害の多い部位だからといってただ単に筋を肥大させたり最大筋力(1RM)を高めるだけではかえって外傷や障害の発生率を高めたり、慢性の障害や初期障害がある場合には悪化させこともある。

 ニーズ分析の競技・活動分析に引き続いて行われる個人特性の分析において、個人のアラインメントや筋力特性やテクニックの特徴などが検討されるが、今この段階で問題とするのは一般論としての当該スポーツ競技や活動に固有の外傷や障害の種類とその原因として考えられているものに関する情報を得ることである。

◆衝突スポーツ(コンタクトスポーツ)

 練習や試合で選手同士の身体衝突が激しく行われるラグビー、アメリカンフットボール、相撲、柔道等々においては、激突時や相手と絡まっての転倒時に瞬間的に大きな力が通常の関節の可動域外にかかることによって、捻挫・脱臼・骨折などの外傷発生率が高い。これらのスポーツに比べて身体衝突がルールで制限されているサッカーやバスケットボール等々のコンタクト(接触)スポーツにおいてもほぼ同様に相手と絡まって転倒した際の外傷が圧倒的に多い。

 相手との接触がほとんどないバレーボール、テニスなどのネット型競技や接触が特定場面に限定される野球やソフトボールでは難しいボールを処理しようとしたり方向を見誤って身体バランスを崩した場合などの転倒が外傷に結びつく事もある。

 スキー、自転車やモーターサイクル(特にオフロード)など練習や試合で転倒が生じやすい競技においても不意のバランスの乱れや高所からの落下によって通常では生じないような大きさと方向の力が関節に作用することがある。 外傷の発生部位は種目によって若干異なるが、足関節・膝関節・股関節をはじめとして、手首・肘・肩も転倒時や相手との格闘や衝突時に頻発する。上背部・下背部を捻ったり、頸部損傷も種目やポジションによっては要注意な部位である。

◆複数筋の共同収縮による関節剛性の瞬間的増大

 ストレングス・トレーニングとコンディショニングのプログラム・デザインのためのニーズ分析にとって重要な事は、これらの外傷のいくつかは関節周囲筋群の素早い共同収縮によって関節剛性を高めることで防いだり損傷の程度を軽減させる事が可能であるという点である。膝関節の前十字靭帯や半月板損傷が生じる一要因として大腿四頭筋・ハムストリングス・腓腹筋・膝窩筋などの膝周辺筋群の筋力が激しい運動に見合うだけの筋力を保持していないことだけでなく筋力アンバランスや筋の共同作用がうまく機能しないことが考えられている。しかし、筋力のバランスや共同作用は外傷の生じやすい関節周辺の筋力を個別に強化するだけではうまく機能しない。各筋の筋連結や同時収縮さらには隣接する他の関節(膝なら足関節や股関節)運動との関係でコンセントリックおよびエクセントリック活動が特定の関節角度で瞬間的に生じることで機能するのである。

 各種目のどのような場面で典型的な外傷が生じているか、筋力・筋バランス・姿勢にかかわるどのような原因が考えられるかをスポーツ医学・機能解剖学の文献によって事前に検討することが障害予防のためのエクササイズ種目の選択や組み合わせや実行段階での留意点に影響してくるのである。

◆オーバーユースと不適切なフォームによるスポーツ障害

 上述のように不適切な力が一時的に作用したために生じるスポーツ外傷とは別に、一定のストレスが長期にわたって何回も作用した結果として組織の炎症や変性を発生させるスポーツ障害もスポーツ医学的ニーズ分析の対象である。

 野球の投球動作を始めとしてテニス、バドミントンなどのラケットスポーツ、バレーボール、ハンドボール、水泳、ゴルフ、剣道など、肘の位置が肩の高さよりも上で力強い運動が繰り返し行われるスポーツにおいて肩の障害がよく見られる。これらの多くは上腕骨と肩甲骨の間の関節で生じるストレスの繰り返しが原因となって起こる。関節に大きな力が繰り返し作用する事によって靭帯や関節包や腱板などが伸張したり微細損傷が生じ関節の不安定性が増す。その結果さらに肩の運動にともなう組織のストレスが増大してさらに変性が進行し運動中の動的安定性が破綻してついには部分断裂や炎症を引き起こすのである。 この肩関節(正確には肩甲上腕関節)の不安定性を生じさせることなく、同時に肩甲帯全体としての可動性を維持・向上させることがこうした障害の予防にとって重要となる。したがって、ローテーターカフの筋群(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋)をバランスよく強化して運動中の上腕骨の位置を安定させると同時に、肩の柔軟性を維持・向上させるためのストレッチングを行う必要がある。また肩甲骨の運動が肩甲上腕関節の可動性と安定性に影響するため肩甲骨の運動に関与する菱形筋・小胸筋・僧帽筋・前鋸筋などの作用も視野に入れておく必要がある。最後に肩全体としての力強い運動に主として関与する三角筋、広背筋、大胸筋の働きを検討する。肩の障害予防としてこれらの筋群のみを強調して強化する事はむしろ不安定性を増大させる結果につながる事に注意するべきである。

◆障害予防のためのテクニックの改善とストレングス&コンディショニング

 野球の投球動作、テニスのサーブやオーバーヘッド・ストローク、ハンドボールのシュート等々に見られるように肩から腕にかけての力強い運動は、まず下肢で発生した運動が骨盤へ伝わり、さらにその運動が体幹上部そして肩へと伝わることによって効率よく行われる。もし下肢や体幹の運動が不十分であったり、初期の下肢の運動中に体幹や上体の固定が不十分で運動の伝達がスムーズに行われないと、いわゆる手投げとか手打ちといわれる効率の悪い動作となる。この動作で早いボールを投げようとしたり強いボールを打とうとするとどうしても肩に負担のかかったフォームとなる。その場合、肩に負担をかけずにこれまでと同等以上のパフォーマンスを発揮するための身体全体を使ったテクニックへの改善が障害予防にとって重要な課題となるが、その際に下肢の動的な安定性、柔軟性、爆発的な力の発揮および下肢で発生した運動をスムーズに上体へと伝える体幹の機能が十分に発達していないとこうしたフォームの改善はうまくいかない事が多い。したがって各種目の動作について下肢と体幹のどの筋群がどのように機能するのかについて諸説を参考にして検討していただきたい。

◆筋持久力への着目

 不意の大きな力が作用する事による外傷やストレスの蓄積による障害の発生が、瞬間的な筋力や筋力バランスだけでなく筋持久力の欠如によっても生じる可能性がある点にも注意する必要がある。肩甲骨の運動と安定性を維持する筋群の早期疲労によって肩甲上腕関節に対する負担が増大することや、長時間運動中の腰椎への負担が体幹筋の疲労によって靭帯の緊張が強いられるために増大する事が指摘されている。大きな力を長時間にわたって繰り返し発揮するための安定した姿勢や力の発揮の仕方の神経-筋系の学習効果と局所的な筋持久力そのもを改善するためのプログラム・デザインを計画する目的で、当該種目の外傷や障害の発生と持久力の関連についても検討する必要がある。

◆肉離れと筋断裂

 拮抗筋間の筋力、特にコンセントリック筋力とエクセントリック筋力に大きな差があること、拮抗筋の同時収縮期の筋の活動量の不一致、活動と弛緩の切り換えがスムーズに生じないこと、あるいは左右の筋力バランスの欠如などによって肉離れや筋断裂が生じる危険性が指摘されている。特にハムストリング、大腿直筋、腓腹筋などの2つの関節をまたぐ筋では、一方の関節近辺では伸展にともなうエクセントリック活動を強いられ、同時に他方では屈曲にともなうコンセントリック活動を極めて大きな力で瞬間的行わなければならないことがある。また大腿二頭筋の長頭と短頭のように異なる神経による二重支配を受けている筋もある。

 このような筋の肉離れや筋断裂を予防するためには、筋の柔軟性やコンディションを維持するとともに、単関節の単一運動軸上の種目だけでなく、エクセントリックとコンセントリックが混在する多関節性の動作による種目や、屈曲・伸展と内旋・外旋あるいは内転・外転が同時に生じるようなエクササイズ種目、あるいは瞬間的な筋の伸張という刺激に対して素早い短縮性収縮で応答するという能力を向上させるための種目を工夫する必要がある。 その前提として肉離れや筋断裂の発生しやすい部位と運動局面、例えばランニングの遊脚期後半の振り下ろし期および接地期後半の蹴り出し期のようなエクセントリックとコンセントリックの混在する局面についてスポーツ動作を検討することも必要である。