エクササイズ種目の選択(1) | S&Cスポーツ科学計測テクノロジー スポーツパフォーマンス分析

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2018.05.30コラム
エクササイズ種目の選択(1)

エクササイズ種目の選択

 S&Cのトレーニング・プログラムをデザインするためにコーチが操作しなければならない変数のうち、今回は「エクササイズの種目の選択」に焦点をあてて、その基本的な考え方と選択の視点について解説し、種目選択の具体例については次回説明する。


◆種目選択の無限の可能性

 数多くのエクササイズ種目の中から何と何を選ぶか、レジスタンス・トレーニングの最も基本的でポピュラーな種目だけをとってもざっと30種目を軽く超える。グリップの位置や姿勢やベンチの角度や使用する器具などを考慮して分類すれば何百種類あるいはそれ以上の種目が存在することになる。

 腹筋群の種目だけを取り上げても、腹直筋下部、腹斜筋、腹直筋上部、腹横筋、それらの複合という主に活動する部位を特定してそれぞれ、フロアーで行う種目、フラットベンチで行う種目、インクラインベンチやローマンチェアーで行う種目、ケーブルを引く種目(プルダウン種目)、ぶら下がって行う種目(ハング系)、メディシンボールを用いて行う種目、マシンで行う種目というように分類すると100種目近くなる。 仮にある程度絞り込んで60種目のエクササイズの中から配列も考慮に入れて6種目を選び出すとすると、順列組み合わせの計算で60P6=36,045,979,200と約360億通りあることになる。このようにほとんど無限ともいえる種目の組み合わせの中からトレーニングの目標に最も適した種目を数種類選び出すという気の遠くなる作業が種目選択なのである。決してマニュアルどおりにチョイスすればよいといった気楽なものではない。それだけに、よく練られたプログラムには、正確なニーズ分析とそれまでの指導経験による見通しに裏打ちされた目標設定に見合った種目が選択されていることになる。

 したがって10人コーチがいれば10通りの種目選択が作られるのは当然のことである、と同時にそれは指導できる種目のバリエーションの差だけではなく、ニーズ分析によって今何が、その選手に必要か、今後何を目標とするべきか、そのためにどの種目に取り組ませるべきかというトレーニングに対する科学的認識の差やトレーニング哲学の差によるものでもある。


◆エクササイズ種目の機能解剖学

 レジスタンス・トレーニングのエクササイズ種目を選択する基準として、最も基礎的な事項として最低限押さえるべき事は、その種目においてどの関節をまたぐどの筋群が主動筋としての働きをするか、その主動筋群を補助的に助けている共同筋群はなにか、それらの筋群の拮抗筋となるのはどれかという主たる関節運動に直接関与する筋群を確認することと、そのエクササイズを通して関節の位置を固定したり身体全体の姿勢を安定させるために働いている筋群は何かという機能解剖学の知識である。

 例えば、同じ上腕二頭筋を主動筋とするダンベルによるアームカールでも、掌を上に向けず親指が上に来るように肘の橈尺関節を回内させて行うハンマー・カールのほうが共同筋としての腕橈骨筋の関与が強くなる。スタンダードなベンチプレスにおいて主動筋は大胸筋と上腕三頭筋と三角筋の前部であるが、ナローブリップのベンチプレスでは上腕三頭筋の関与が増す。オーバーヘッド・プレスやスクワットを高強度で実施する際、脊柱起立筋群や腹筋群による姿勢を安定させるため働きは極めて活発化し、シットアップやハイパーエクステンションよりも明らかに強い緊張が生じている。

 こうした種目ごとの関与する筋群の特徴を知る手がかりは、レジスタンストレーニングの種目を解説したマニュアル本だけでなく、関節運動の種類ごとに関与する筋群を整理した機能解剖学の書物とエクササイズ種目の筋活動の解明を目的とした書物や研究論文である。機能解剖学の書物として推薦できるものは「目で見る動きの解剖学」大修館書店と「機能解剖学」医道の日本社、がある。筋電図や動作分析を駆使したエクササイズ種目の特性分析に関連した論文がよく掲載される雑誌はThe Journal of Srength and Conditioning Reserch。Per A. TeschによるTarget Bodybuilding,Human Kinetics1999にはMRIを用いて各種目ごとに関与する筋群が詳しく示されている。


◆エクササイズの選択基準

 多くの種目を絞り込んでエクササイズ種目を選択する基準は以下の方法による。

(1)コア種目と補助種目

 コア種目とは、プログラム中の主要なエクササイズであり、特徴としては、多関節エクササイズであり、大筋群を動員するエクササイズであり、1RMテストが安全かつ効果的に行える種目である。具体的には肩部のショルダープレス、胸部のベンチプレスやインクラインプレス、大腿部のスクワット、臀部のデッドリフト、およびクリーンやプッシュプレスといったそれらの複合種目である。背中のベントオーバーロウをこれに含めることもあるが、フォームの安定性と1RMの正確性という点でコア種目には含めないとする考え方もある。コア種目はまた、プログラムの実施に際し、よほどのことがない限り省略してはならない種目である。これに対して補助種目とは、コア種目で用いられる筋群を個別に補助的にトレーニングするための種目であり、それらは短関節エクササイズであって、小筋群を動因し、安全かつ効果的に1RM測定が実施できない種目である。そして、疲労やトレーニング時間などの問題により、場合によっては省略してもよい種目でもある。

 スクワット、ベンチプレス、ショルダープレスなどはコア種目でありシットアップやアームカールなどは補助種目である。

(2)構造的種目と非構造的種目

 コア種目のうち、単に多関節というだけでなく、ほぼ全身を用い多くの関節のコーディネートされた筋力発揮を必要とする種目を構造的種目と呼ぶことがある。スナッチ、クリーン、ジャーク、プッシュ・プレス、スクワット、デッド・リフトなどがそれにあたる。こうした種目はフットボール、バスケットボール、ラグビー、柔道など多くのスポーツにおける爆発的動作で必要とされる全身のパワー発揮の発達にとってに極めて効果的なものとなる。

(3)クローズド・キネティック・チェインとオープン・キネティック・チェイン

 ランジ、スクワット、ステップ・アップなどは足が地面またはボックスなどの固定物に固定されて力を発揮する。それに対してレッグ・エクステンション、レッグ・カールなどは足が固定されておらず自由に動かすことができる。前者はランニングの立脚(接地)相やジャンプ動作の踏み切りと対応しており、後者はランニングの遊脚相やジャンプの振り上げ脚の動きと対応している。いずれの視点も種目の特異性から種目を選ぶ際には重要となる。

(4)グラウンド・ベースとベンチ・サポート

 スポーツのほとんどの動作は足が地面に接地し、立って行われる。その上で体幹を固定し上肢による押す・引くといった動作が三次元的に行われる。決してベンチに腰掛けたり、ベンチの上に寝て上体がサポートされた状態で行うのもではない。その意味でクローズド・キネティックの概念を一歩進めたグラウンド・ベースという考え方によって種目を選ぶ方法が成立する。

(5)バイラテラルとユニラテラル

 通常は、両脚または両腕で発揮する筋力の値が、右と左で別々に発揮した筋力を加えた値よりも小さくなってしまうということが生じる。これは両側性抑制と呼ばれる現象である。自転車競技の選手や投擲の選手ではこの傾向が一般人よりも顕著となる。逆にボート選手のように両腕・両脚同時に力を発揮するという競技特性を有する選手の場合は両側同時のほうが大きな力を発揮でき、その傾向は競技レベルの高さと相関があるという報告がある。したがって、両脚同時に行うスクワットや両腕同時に行うベンチプレスか、それとも片脚で身体を支えるランジやシングル・レッグ・スクワットや片腕で行うシングル・アーム・ダンベル・スナッチかといった選択肢がある。

(6)フリーウエイトとマシーン

 同じ種目でもフリーウエイトで行う種目とマシーンでも行える種目がある。フリーウエイトの長所はマシーンと比較するとフリーウエイトの短所であり、逆にマシーンの長所はフリーウエイトと比較するとマシーンの短所でもある 基本的にフリーウエイトは運動の軌道をも自分でコントロールすることが必要であるのに対してマシーンでは一定の軌道上をグリップ部やパッド部が動くものが多い。フリーウエイトの可動範囲は自分でコントロールしなければならないが、マシーンではあらかじめ可動範囲を限定することができるものが多い。フリーウエイトは常に重力方向に負荷がかかるが、マシーンは、てこやプーリーを使うことで負荷のかかる方向が人為的に水平や斜めに変えてある。フリーウエイトで運動中に負荷を変化させる要因は筋力と重力以外にはないが、マシーンではてこの比率やプーリーの形状を工夫して可動範囲中の負荷の大きさを変えている。

 最近では、従来のマシーンの長所を持つと同時にフリーウエイトの持つ競技スポーツや日常動作に近い負荷のかかり方をするという長所を併せ持ったいくつかのマシーンが考案されている。例えば軌道が安定しつつ、負荷は重力方向にだけ働き、加速度によって負荷を調節できるマシーンとか、負荷を水平方向や斜め方向にかける事ができると同時に、動作の軌道は自分でコントロールしなければならないといったものがある。