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2018.05.30コラム
中高年者のためのレジスタンストレーニング

◆有酸素運動+レジスタンストレーニング+ストレッチング

 高齢社会の到来に向けて、高齢者ができるだけ人に頼らずに自立して元気に生活していくための中高年者を対象としたレジスタンストレーニングの役割が注目を集めています。昨年11月にフィンランドで開催されたストレングストレーニングにかんする国際会議においても、加齢とレジスタンストレーニングの問題は重要なシンポジウムの柱となっていました。

 1970年代から80年代にかけて、高齢者の運動といえば、ほとんどが有酸素運動に関心が向けられ、呼吸器系や循環器系の疾患予防と機能改善がアメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドラインにおいても強調されているにすぎませんでした。むしろ、レジスタンストレーニングは高血圧に対する悪影響や重量物を扱うことによる危険性があるという理由で中高年、特に高齢者の健康作りの運動からは対象外というイメージがありました。しかし、90年代に入り、相次いで改定されたACSMのガイドラインの中で、中高年者の筋力維持のためのレジスタンストレーニングの必要性と有効性が強調されるようになり、柔軟性を維持改善するためのストレッチングとあわせて、まんべんなく健康維持のエクササイズを進めていく必要性が強調されるようになってきました。

 わが国でも、最近、中高年者のレジスタンストレーニングにかんする研究や指導書が確実に増え始めています(Funato 1994, 福永 1999, 都竹 1999)。

 

◆日常生活と筋力の低下 

 自立した日常生活を実施していくには、どうしても最低限度の筋力が必要です。筋力の低下は歩行困難、歩行速度の低下、階段昇降の不自由、椅子や床へ腰を降ろしたり立ったりする時の速度の低下といった問題を惹き起こします。また、生活に必要な物を運搬したり生活環境を整えたりといった面でも介護が必要となってきます。筋機能の低下とこうした日常生活に必要な動作の遂行能力の低下との間にはいくつかの研究で関連が認められています。特にできるだけ高速で大きな力を発揮する能力であるパワー(力×速度)や、できるだけ短時間で大きな力を発揮する能力であるRFD(筋力の立ち上がり速度)との間にこうした関係が強く見られます。

 高齢者が何かにつまずいて転倒した際に脚や腰を骨折しそのまま寝たきりになってしまったという話をよく聞きます。転倒を防ぐ筋力はじわじわと大きな力を出すのではなく、瞬間的に大きな力を発揮する必要があり、そのためにもできるだけRFDの低下を防ぎ、維持すること、できればトレーニングによって向上させることが転倒による寝たきりを防ぐためにも重要です(Hakkinen 1995)。

 骨折を防止するには骨そのものを丈夫にすることが必要ですが、骨密度の低下を防ぐ上でもレジスタンストレーニングの有効性が示されています(Suominen 1998)。このことは特に閉経後の女性では重要となります。

▼LPT式パワー測定器を用いた、高齢者の立ち上がりパワー測定の様子。



◆中高年者の筋力低下のメカニズム

 中高年者の筋力低下のメカニズムとしては、筋骨格系の老化、慢性疾患の蓄積、疾病治療のための薬品の影響、神経系の変化、ホルモン分泌量の減少、栄養不足、そして不使用による萎縮によるものが考えられています(Kraemer & Fleck 1997)。骨格筋の中でも特に下半身の筋量低下が顕著であり、筋量低下のメカニズムとしては筋線維の萎縮と筋線維そのものが失われるという両面があることがわかっています。また、タイプⅡの筋線維がタイプⅠの筋線維よりも失われやすいようです。神経系の変化としては、モーターユニットそのもの数が減少すること、神経筋接合部の機能低下、モーターニューロンによる筋線維支配の低下等が加齢によって進行するといわれています。内分泌系の働きも低下し、レジスタンストレーニング後の成長ホルモンやテストステロンといったタンパク同化ホルモンの分泌も低下します。

 いずれにせよ、加齢による筋力やパワーなどの低下を食い止めるにはレジスタンストレーニングしかありません。

 

◆トレーニング効果と方法

 60歳から98歳の高齢者を対象とした約20篇の研究をまとめると、平均8週間程度のレジスタンストレーニングで十数パーセントから最大200%の筋力増加(平均約50%程度)が確認されており、タイプⅡ、タイプⅠ両者の断面積の増加、パワーとRFDの増加、骨密度の増大、日常生活動作の改善が多くの研究で確認されています。

 高血圧、糖尿病といったこれまでレジスタンストレーニングが敬遠されがちであった人々においても、メディカルチェックを経て正しい方法で行えば安全に効果を上げることのできることが確認されつつあります。

 基本的な初期プログラムとしては、全身の筋群に対してまんべんなく刺激を与え、筋量の増加を惹き起こすようなプログラムが中心となります。そのためには、腰や関節などへ急激に大きなストレスがかからないように安全性確保の観点から、正しいフォームの習得やベンチなどによるサポートが前提となりますが、むしろ、マシーンを積極的に利用することが得策でしょう。