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2018.05.30コラム
筋力・パワーと持久力を同時に高めることは可能か?

筋力・パワーと持久力を同時に高めることは可能か?

筋力・パワーと持久力を同時に高めることは可能か?】◆トレーニングの特異性

 ニーズ分析によって明らかにされた身体緒機能が最もよく発達するようなトレーニング種目を選択し、プログラムを作成していく際、注意する必要があるのは、身体は与えられた刺激に対して特異的に反応するという点です。

 例えば全力でのショートスプリントトレーニングを行う場合と持久走トレーニングとでは用いられるエネルギー代謝のメカニズムや動員される筋線維タイプ等の生理的機能が異なるため、トレーニングに対する身体諸機能の適応反応は違ってきます。したがって向上させる必要のある身体機能にターゲットを絞ったトレーニングを一定期間継続していくことが必要です。

 しかし、パワー、筋力、スピード、持久力といった複数の異なる身体諸機能を、限られた一定期間にできる限り向上させなければならないサッカーやラグビー等のようなスポーツでは、どのようにトレーニングプログラムを構成していけばよいのでしょうか。



◆筋力と持久力の同時トレーニング

 これまで多くの研究が、ストレングストレーニングと持久力トレーニングを同じ時期に平行して行うことにより、筋力と持久力のトレーニング効果にどのような影響が生じるかを報告しています。

 それらの結果は完全に一致しているわけではなく、同時トレーニングによる筋力の向上はストレングストレーニングだけを行うよりも低く押さえられるとするもの(Hickson, 1980; Hunterら、1987など)、同時トレーニングよって筋力の発達は妨げられず(Hortobágyiら,1991など)、逆に持久力の向上率が低くなるとするもの(Nelson,1990)も示されています。

 これらはいずれも十分なトレーニング経験のない被験者によるものですが、十分なトレーニング経験のある被験者を対象として5RM×5セットというヘビーレジスタンストレーニングを含む週4回の高強度ストレングストレーニングと、80~85%Vo2maxでの40分間走とインターバル走からなる週4回の持久力トレーニングを12週間にわたって同時に行った研究(Kraemer, 1995)では、レジスタンストレーニングだけの単独トレーニング群に比べて同時トレーニング群は明らかに筋力の向上が小さかったが、上肢だけの筋力トレーニングを用いた同時トレーニング群では下肢筋力の向上にはストレングストレーニングだけを行ったグループと差がなく、持久力にかんしてはどのグループも同じように向上したとする結果が示されています。

  ウエイトトレーニングの経験の豊富な現役のラグビー選手とゲーリックフットボール選手を対象とした8週間の研究(Hennessy & Watson, 1994)では、同時トレーニング群においてベンチプレスとスクワット筋力の発達が有意に小さく、特にパワーにかんしては垂直跳びと20メートルスプリントタイムにおいてストレングストレーニングだけを行ったグループではそれぞれ3センチと0.04秒の有意な改善が見られたのに対して、同時トレーニング群では全く改善が認められなかったとしています。そして持久力にかんしては、ストレングストレニングだけを行ったグループでは全く改善が認められませんでしたが、同時トレーニング群は持久力のみをトレーニングしたグループと同程度の改善を示したと報告されています。

 パワーの発達については、同時トレーニングによって等速性筋力測定による高速での筋力のみが発達を妨げられ、低速での筋力向上は持久力の向上と両立するとする報告もあります。(Dudley & Djamil, 1985)また、すでに高い持久力を持った選手を対象とした場合、同時トレーニングによって筋力の発達は妨げられないとする報告も見られます。(Hunterら、1987)

 

◆プログラムデザインへの指針

  以上のことからトレーニング経験者に対して高強度のストレングストレーニングと持久力トレーニングを同じ筋群に対して同時に行うと、ストレングストレーニングを単独で実施するよりも筋力の向上が小さくなり、特にパワーの向上が妨げられ、持久力は影響されないと言えそうです。トレーニング計画を立てる際にはこの事をふまえたうえで、競技特性、当該チームや選手のレベル、弱点、強化目標に応じてプログラムデザインを行って下さい。

  ただし、まったくトレーニング経験のない被験者を対象として週3回、8種目のエクササイズを5~7RM×4セットおよび70%強度の自転車エルゴメーターエクササイズ50分といったきわめて「普通」のトレーニングを10週間行ったところ、同時トレーニングよるトレーニング効果の相互抑制は全く見られなかったとする報告(McCarthyら, 1995)や、ボート選手を含むトレーニング経験者に16週間の同時トレーニングをしたところ、男子では筋力向上に差がなかったが、女子には顕著な同時トレーニングによる筋力向上抑制効果があるとする性差の存在を示すデータ(Bellら, 1997)もありますので、念のため。