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2018.05.30コラム
エキセントリック筋活動の特徴と重要性

エキセントリック筋活動の特徴と重要性

【エキセントリック筋活動の特徴と重要性】




◆エキセントリック筋活動とスポーツ

 筋活動には、コンセントリック、アイソメトリック、エキセントリックという3種類のタイプが存在するという事はよくご存知の事と思います。今月は特に見過ごされやすいエキセントリックについて考えてみましょう。



筋に対してエキセントリックな負荷がかかる局面は日常動作やスポーツにおいて多く観察する事ができます。階段を降りる、腰掛ける、あるいはウエイトを降ろすといったネガティヴワークをする場合、ジャンプや落下後の着地あるいは方向転換等の加速した身体を減速させる必要がある場合(投げる・打つ・蹴るといった動作後の腕や脚の減速も含まれます)、さらには相手に引かれたり押されたりした際の急激な外力に対する衝撃吸収の局面等がそれにあたります。こうした局面での障害発生を予防し、パフォーマンスを向上させるためにはエキセントリックな筋活動の特徴とそのトレーニングに対する生体反応について詳しく知る必要があります。 

◆エキセントリック筋力の特徴 

 これまで教科書的には、エキセントリックに発生される筋力はアイソメトリックおよびコンセントリックに発生される筋力よりも大きく、筋力-速度曲線は、コンセントリックとは逆に速度が速くなるほど大きな筋力を発生する事ができるとされてきました(Komi, 1973など)。しかし、摘出筋や上肢の筋で得られたこうした結果に対して、近年、膝の伸展や屈曲では収縮速度が速くなるとエキセントリック筋力が低下する(Coliander & Tesch, 1989; Westing et al., 1988)あるいはアイソメトリックレベルにとどまる(Westing et al., 1989)といった報告がなされるようになりその見直しが迫られていました。

 肘屈曲においても、13歳の少年では速度の上昇に伴う筋力増加が見られない(Kawakami et al., 1993)、あるいは筋力レベルの高い被験者でのみ高速でのエキセントリック筋力が高くなる(Hortobagyi & Katch, 1990)という報告があることや、下肢筋で高速のエキセントリックで大きな筋力が発揮できるのはエリート選手の多関節動作に限られる(Zatsiorski, 1995)、あるいはエキセントリック筋力発揮の際に電気刺激をすると、摘出筋の特徴が表面化し、高速での筋力の増加が観察されるようになる(Dudley et al., 1990など)といったことなどから判断すると、高速におけるエキセントリックな最大筋力の発揮は、通常抑制されており、トレーニングによってその特徴を活性化させる事ができるのではないかと考えることができます。

 

 ◆エキセントリックトレーニング 

   エキセントリックトレーニングによってエキセントリック筋力が向上する事は筋力の特異性の原則から容易に想像できますが、そのトレーニング効果の程度や、エクセントリックトレーニングによるコンセントリック筋力やアイソメトリック筋力向上効果についてのこれまでの研究をまとめると次のようになります。

 まず第1に、アイソキネティック、ウエイトスタック、フリーウエイトのいずれにおいても、トレーニング動作にエキセントリックな成分を含める事により、エキセントリック成分を取り除いたコンセントリックのみのトレーニングと比べて、有意に大きなスクワット筋力の増加率(Häkkinen & Komi, 1981)や3RMレッグプレスのトレーニング効果(Dudley et al., 1991)が得られ、ハーフスクワットや垂直跳びの向上率も有意に大きく(Colliander & Tesch, 1990)、獲得された筋力と筋肥大効果の保持期間も長い(Hather et al., 1991)。

 第2に、エキセントリックだけのトレーニングを行う事によって、コンセントリック筋力やアイソメトリック筋力をそれらの独自のトレーニングだけを行うよりもさらに大きく向上させるということはない(Johnson et al., 1976; Atha, 1981; Fleck & schutt, 1985; Clarke, 1973など)。

 第3にエキセントリックだけのトレーニングよるエキセントリック筋力の向上効果はコンセントリックだけのトレーニングによるコンセントリック筋力の向上効果よりも有意に大きい(Komi & Buskirk, 1972; Hortobagyi et al., 1996a)。またその際、神経系の適応(EMG活動)と筋肥大効果もエキセントリックトレーニングにおいて有意に大きい(Hortobagyi et al., 1996b)。



◆エキセントリック成分への注目

 以上のことから、トレーニング動作においてエキセントリック成分が除去されるような方法は効果が低いこと、エキセントリック筋力を必要とする競技においてはエキセントリック成分を強調したトレーニングプログラムが必要となり、その速度に注意する必要があるという事が結論されます。どのようなエキセントリック筋力が必要かといったニードアナリシスや選手のエキセントリック筋力の評価、そして安全に効果を高めるためのトレーニングの負荷や方法についてはこれからの研究課題であると言えるでしょう。