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2018.05.30コラム
トレーニングを中断するとどうなるか?

トレーニングを中断するとどうなるか?

【トレーニングを中断するとどうなるか?】

 

◆トレーニングの中断と縮小

 ケガやシーズン開始などの理由で定期的に継続していたストレングス&コンディショニングのトレーニングを中断したり、縮小しなければならい事があります。コンディショニングトレーニングは冬期の1~2ヶ月間だけでそれ以外は全く行わないという方針のチームも見かけます。また、学業や仕事に専念する期間を確保しなけばならない場合もあるでしょう。このようなトレーニングの一時的な中断や縮小が選手のコンディショニングに与える影響についての科学的な知識は合理的なプログラムデザインのためには不可欠です。

 

◆筋力トレーニングの中断による影響

  一定期間のレジスタンストレーニングによって向上した筋力がトレーニングの完全な中止によってどのように変化するかという問題に取り組んだ研究は、さまざまな被験者、トレーニングタイプ、身体部位、測定法を用いて行われていますが、トレーニング期間とトレーニング中断期間の観点からまとめると次のようになります。比較的短期の8~10週間のトレーニングにより8~32%向上した筋力はその後の2~12週間のトレーニング中止によって明らかに低下し、トレーニング前よりも5~20%高い値にとどまりはしますが有意ではありません(Ishidaら1990、Nariciら1989、Häkkinenら1989)。一方、16~24週間という比較的長期のトレーニングの後に8~12週間にわたってトレーニングを中断すると、トレーニングによって6.9~148%まで増加した筋力はやはり明らかに低下しますが、トレーニング前の筋力に比べて有意に19~105%高い値に維持されている傾向が見られます。(Häkkinen &  Komi1983、1985a,b Häkkinen1985、Staronら1991、Blimkieら1992)。

 これらの結果で注意すべき事は、トレーニングの中断により筋力は明らかに低下しますが、被験者によっては2週間の中断後わずかに向上する例も指摘されており(Häkkinenら1989)、トレーニングタイプやテスト方法によってもかなりのばらつきが存在するという事です。ただ、トレーニング期間が長いほど、トレーニングの中断による影響は小さいと言えそうです。

 

◆トレーニング量の減少による影響

 トレーニングを完全に止めてしまうのではなく、それまでのトレーニングを縮小する事による影響についてもいくつかの研究があります。

   16週間にわたる週3回のジャンプトレーニングにより28%向上した脚筋力がその後の8週間にわたる同じ強度での週1回のトレーニングによっては維持されなかったとする報告(Häkkinenら1990)、10~18週間にわたり週2~3回実施してきた下肢のトレーニングをその強度を維持したまま12週間にわたってトレーニング頻度を減少させると週1回以上ならトレーニング前よりも高い値に維持されるが完全に中止すると有意に低下する(Gravesら1988)、10~12週間にわたる週1~3回のトレーニングによって有意に向上した体幹伸展筋力はその後の12週間にわたる同じ強度での2週間に1回あるいは4週間に1回のトレーニングでも有意な低下が認められなかったという報告(Tucciら1992)等があります。

   これらの結果から筋力維持のためにはトレーニング強度を維持する事が必要であり、頻度は週1回では必ずしも十分とは言えないが筋の種類によってはそれ以下でも維持されうる事が示唆されます。

 

◆インシーズントレーニング

 競技シーズン中のレジスタンストレーニングの中断や縮小による影響を見てみると、女子ボート選手の10週間にわたる週3回のトレーニング後、6週間にわたって週1回から2回に縮小しても筋力の維持もしくは向上が見られ(Bellら1993)、エリートアルペンスキー選手の7ヶ月間にわたるトレーニングの中断により、低速筋力は有意に低下してもウインゲートテストによるパワーは維持されていました(Koutedakisら1992)。また、バスケットボール選手の週4回25週間のトレーニングにより向上した筋力はその後の20週間にわたる週2回のトレーニングで維持されましたが、5週間しかトレーニングを行わなずシーズン中のトレーニングを実施しなかったグループも先のグループよりシーズン前トレーニングによる筋力向上率は低いものの同様に25週間維持されていたと報告されています(Hoffmanら1991a,b)。その一方で、シーズン中のトレーニング中断によるスプリントタイム、跳躍高、筋力のいずれかの明らかに有意な低下がアメリカンフットボールやサッカーで報告されています(Kraemerら1993、Schneiderら1998)。しかし女子ハンドボールノルウェイ代表チームは5ヶ月間の緻密な計画に基づき、1ヶ月半のインシーズンに、持久力、筋力、跳躍高、スプリントタイムをさらに向上させてシーズンの終盤を迎えています(Jensenら1997)。

これらの事から、ピリオダイゼーション計画の立案とトレーニング状態のモニターが不可欠と思われます。