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2018.05.30コラム
トレーニングスケジュールの構成

トレーニングスケジュールの構成



 トレーニングスケジュールを構成する際にまず考慮すべき事は、トレーニングの実行から期待される体力向上効果とそのトレーニングを行う事によって生じる疲労からの回復との関係でしょう。一連のトレーニングの積み重ねによってのみ一定の体力レベルの向上が期待されますが、それと同時にトレーニングを継続実施していく事によって生じる疲労からの回復が考慮されないと体力レベルの向上や、まして試合でのベストパフォーマンスの発揮は難しくなります。そこでトレーニングと疲労回復の関係を基準としてトレーニングスケジュールが組まれることになるのですが、その際、トレーニング効果と疲労の影響をどのようなモデルに基づいて考えるかによってスケジュールの構成の仕方と結果としてのスケジュールそのものは違ったものになります。

 

◆「超回復理論」 

 従来最もよく用いられてきたモデルが「超回復理論」と呼ばれるモデルです。これは適切なトレーニングの後に適切な休養がおこなわれると、疲労からの回復はトレーニング開始前の体力レベルよりも少し高くなる(超回復)という仮説に基づいています。このモデルに基づくと、この超回復のピークに合わせて新たなトレーニングを連続させたり、試合がちょうどこのピークにくるようにスケジュールを構成していく事になります。

 

◆フィットネス-疲労理論(フィットネス-ファティーグ理論)

 これに対して、10年ほど前からよく用いられるようになってきたのが「フィットネス-疲労理論」です。超回復理論が体力レベルの疲労による低下と休養による回復および向上という体力レベルだけの変動を問題とするのに対し、この理論は、まず、一回のトレーニングや1~2週間のトレーニングではすぐに変化しない、もっとゆっくりと変化していく比較的安定した「フィットネスレベル」というものを想定します。そのうえで、このいわば潜在的可能性としての体力が、一時的な「疲労」や健康状態によって変動を受け、その時々の「体力レベル」として体力テストで実際に目にみえる形で測定されたり、試合で発現されると考えるわけです。

 したがってトレーニングや試合に対する有機体の適応として長期的に培われてきた選手のフィットネスレベルは、あるトレーニングをこなすことによってさらに安定もしくは向上するが、その直後は疲労(ファティーグ)もピークに達しているため、フィットネス(プラス要因)と疲労(マイナス要因)の差としての体力レベルは低いレベルにとどまり、疲労が抜けていく事によって徐々に高い体力レベルが発現するとみなされます。 

 例えばトレーニングの直後にはフィトネスレベルが+10で疲労が-12だとするとその時の体力レベルは-2ですが、その後フィットネスレベルが+9に低下しても疲労が-6にまで回復しておれば、体力レベルは+3となり、さらにフィットネスレベルが+8に低下した時点で疲労が-2にまで回復しておれば+6の体力レベルが期待できます。トレーニングをしない事によってフィトネスレベルが低下するよりも速く疲労が抜けていく事によって高い体力レベルが発現するというように、二つの要因の相互作用として体力レベルの変動をとらえるこの理論は、「超回復説」が「一要因説」と呼ばれるのに対して「二要因説」とも呼ばれています。



◆スケジュール構成の違い

 どちらの説に基づいたとしても、一定の強度のトレーニングの後、ピークコンディションに到達するためには休養が必要となりますが、問題はトレーニングの強度と休養の長さのバランスをどう考えるかです。「一要因説」に基づくと比較的大きな強度のトレーニングの後、比較的長い休養を取ることは、大きな超回復を引き出すために有効となりますが、「二要因説」ではトレーニングをしない事によってフィットネスレベルが低下してしまう事を警戒します。

 その結果、一要因説では強度の高いトレーニングと思い切った休養の組み合わせを特徴とするのに対し、「二要因説」は中くらいの強度のトレーニングと疲労回復の速い軽いトレーニングを連続させるという特徴をも持っています。大きな疲労を蓄積せず、しかもフィットネスレベルを低下させないようにしてピークコンディションに到達させようとするからです。したがって重要な試合の前には、「一要因説」に依拠すると数日前に大きなトレーニングをした後はほとんど休養に近いスケジュールを組み試合に超回復のピークがくるようにしますが、「二要因説」に基づくならば中くらいの強度のトレーニングをした後、低強度のトレーニングを連続させ、疲労を蓄積しないようにしながらフィットネスレベルを低下させることなく体力レベルのピークが試合にくるように調整する事になります。

 トレーニングの種類や強度による疲労回復に要する時間の違いや、いつピークが来るのかについては、身体諸機能に対する定期的測定が不可欠ですが、最後にものを言うのは、指導経験とその選手の特徴をよく知っている事だといえるかもしれません。