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2018.05.30コラム
子供のレジスタンストレーニング

子どものレジスタンストレーニング

【子どものレジスタンストレーニング】

◆NSCA公式声明

 最近のアメリカにおける思春期前期および思春期の青少年に対するレジスタンストレーニング人気に呼応して、全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)は、1996年に「青少年のレジスタンストレーニング」と題する公式声明文書と関連文献レビューを発表しました。アメリカでは、そもそもこの年代のレジスタンストレーニングの効果があるのかどうか、危険性はないのか、実施するとすればどのようなプログラムがデザインされるべきかといった問題に対する一定の基準となる見解が必要とされていたからです。

 わが国では、この年代に対するレジスタンストレーニングは今のところ必ずしも一般的ではありません。また、トレーニングの現場でレジスタンス・トレーニングにまつわる問題が取り沙汰されている状況は見あたりません。しかし、競技スポーツの専門的トレーニングの開始時期が低年齢化している最近の状況を考慮して、今回はこの問題について考えてみたいと思います。 

 

◆筋力向上効果はある

 NSCAの公式見解書は、第二次性徴の発現する前の思春期前の少年や少女においても、正しく計画され、指導されるレジスタンストレーニングプログラムに基づいてトレーニングを実施すれば、障害を発生させることなく子どもの成長と成熟による筋力の増加に加えてさらに筋力の増大効果が得られると述べています。そして、レジスタンストレーニングによるスポーツパフォーマンスの向上と、障害予防効果も示唆されています。さらに、若年性高血圧、肥満、骨粗鬆症に対して有効な運動処方となる可能性や心理的効果についても触れられています。

 この年代の子どもでは十分な量のテストステロンが分泌されないことから、思春期前の子どものこうした筋力向上は、筋肥大よりも神経系の発達によるものであると考えられています。



◆やり方を誤ることによる危険性

 子どものレジスタンストレーニングがパフォーマンス向上に効果があるとなると、勝つことに一義的な価値を置く指導者によってトレーニングが過度に強調されることが懸念されます。しかし、筋力が向上し、パフォーマンスが伸びるからといってレジスタンストレーニングをこの時期の子どものスポーツトレーニングにすぐさま導入することには注意を要します。

 身長の発育は長骨の骨端軟骨部の成長線で生じますが、過度な負荷や無理な力が加わるとこの部分がダメージを受け四肢の変形や成長の停止が生じる危険性があります。また、思春期前の成長期に腰椎の前弯が形成されて行きますがこの時期に過剰なストレスが腰背部にかかると、将来、腰椎の障害を引き起こす確率が高くなるとも言われています。

 また、勝つことだけが過度に強調され、一種目に限定された専門的トレーニングだけを発達の早い時期から継続していくことが持つ「競技的早期成熟と未熟」という問題点が指摘(村木、1984)されて久しい昨今、ストレングストレーニングの導入のあり方も、将来を見据えた、全面的な運動能力の向上を課題として行われるべきであると考えます。

 

◆安全なプログラムとは

 レジスタンストレーニングによる障害の発生を防ぐと言う観点から、思春期前期にある子どものためのプログラムに必要なガイドラインを示すと以下のようになります。

 まず、強度は通常10~15RMとし、最大でも6RMを超えないこと。1RMはおこなわない。セットは1セットから開始し、最大でも3セットとする。種目数は最大でも10種目程度で週に2~3回の頻度でおこない、一回の時間は30分以内とする。

 実際、NSCAの公式声明の前提となった多くの研究ではこうしたプログラムによるトレーニングにより障害を起こすことなく、明らかな筋力向上が認められたのです。



◆将来の土台を作る

 高度化の基盤となる全面的な運動発達と言う観点から特にストレングストレーニングのプログラムに必要となるのは、以下の4点です。

 第1に、関節の柔軟性を発達させるために、可動域を大きく広く使ったエクササイズ動作を用いること。

 第2に、腱や靭帯といった発達に時間のかかる結合組織、そして骨の発達を促進するため、強度そのもよりも刺激の頻度や方向に変化をつける。たとえば、片足ケンケンやバランスを取りながらのスクワット動作など。

 第3に、パワフルな四肢の運動をしっかりと支持し、力の効率的な伝達に必要となる体幹部(コア)の筋力、特に回旋や斜めの動きに必要な筋をしっかり鍛える。

 第4に、末梢の四肢の運動に際して肩、骨盤、股関節などの関節を固定し安定化させる筋群(固定筋)とその機能の発達。

 これらは思春期以降の選手のピリオダイゼーションにおける解剖学的適応期(Bompa,1995)の主要課題に相当するものであり、本来は思春期前の自然な遊びの中で発達させられるべきものでしょう。自然が破壊され遊びが制限された現状では、スポーツトレーニングのなかでこうした課題を意図的に追求する必要があるのです。

▼子どもを対象とした運動指導の様子