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2018.05.30コラム
スピード&アジリティーのトレーニング(1)

スピード&アジリティーのトレーニング(1)

― トレーニング対象の明確化 ―

 

◆スピード改善要因

 スポーツにおけるランニング動作による身体の移動に限定すると、スピードとは一定距離の移動に要する時間の長短によってあらわされ、その短縮に貢献する要因は次の5点になります。

①反応 : これは、外部状況の変化が生じてから動作が開始するまでの時間です。「感覚器官において刺激を受容してからどのような動作を起こすべきかを決定するまでの時間」と、「その動作が実際に生じるまでの時間」に分けることができます。前者は戦術理解や意思決定能力に左右され、選択肢の数によっても変化します。後者は単純な動作の場合ほとんど変化しませんが、全身のコーディネーションが必要な複雑な動作の場合、動作がどれだけ自動化されているかで動作の発現までの時間は異なりトレーニングによる改善が可能です。

▼Optojump Nextを用いた反応ジャンプ測定



②スタート : これは高加速のために最も適切な身体姿勢をどれだけ速く作れるかという要因です。スポーツではさまざまな姿勢での静止状態あるいは移動状態からさまざまな方向への移動が行われます。目的とする方向へ加速していくために最も理想的な最初の姿勢を作るための1歩目の踏み出し位置、方向、腕の使い方、腰や頭の高さ、ひざの角度、地面に対して力を入れる方向、足への体重の乗せ方、二歩目の位置、慣性に打ち勝つ全身の爆発的筋力等々がここでのポイントとなります。最大でも4歩から5歩までの距離の移動時間を規定する要因で、クイックネスと表現されることもあり、実際のスポーツ場面では反応と切り離すことはできません。

▼スプリントのスタート局面



③加速 : 短い時間の間にどれだけ速度を上昇できるかという要因です。スタートから引き続いて徐々に歩幅を広げながら、ステップに要する時間を短く保ったままさらに速度を上げていくためのテクニックと筋力要因が必要となります。スタート後30メートルから60メートル程度の地点まで速度は上昇します。

④トップスピード : その人が到達しうる最大速度です。多くのボールゲームではトップスピードに到達することはごく稀で、特定場面の特定ポジションの選手以外では、短時間での加速を高めるほうが重要となります。

▼スプリントの加速局面



⑤スピード維持 : 到達したトップスピードは徐々に低下してきますが、それをできるだけ低下させないようにしていくという持久性の要因です。

 

◆アジリティー改善要因

 ランニング動作におけるアジリティーとは、連続的に変化する外部信号や自己の意思にもとづいて、上述した、「反応→スタート」もしくは「反応→スタート→加速」を反復することであり、再スタートの際の方向転換や一時的な停止を含みます。したがって、高加速に加えて急激な減速という要因が必要となります。また、急激な方向転換や停止に伴うバランスの維持という要因が直線的なスピードを規定する要因以外に付け加わります。ただし、トップスピードに到達するほどの距離であれば、アジリティーというよりもスピードの反復と表現するほうが適切でしょう。

 最初の1歩から数歩までの初速度は、スタート(クイックネス)によって規定されますから、方向転換や再スタートまでの距離が短ければ短いほど、加速よりも反応とスタート(クイックネス)が重要となり、距離が長くなるにつれて、加速の大きさがより強く貢献するようになります。

 

◆アジリティーとスピードの関連

 5ヤード(4.5m)の間隔で床面に平行に引かれた3本のラインの中央から左右どちらかのラインに向かってスタートし、一方のラインを手でタッチして反対側のラインに移動し、そのラインをタッチして中央のラインまで戻るという「プロアジリティラン」と呼ばれるフットボール選手のアジリティーの測定にアメリカでよく用いられるテストがあります。

▼プロアジリティランの切り返し局面



 日本人学生選手32名のテスト記録(平均4.8秒)と有意な相関があったのはターンの局面に要した時間ではなく、ランニングの局面であり、なかでも最も高い相関(r = 0.75)が示されたのは、中央のランニング局面(約8メートル)に要した時間(約1.8秒)であり、しかも、最初の1歩の速度と加速度およびターン直前の速度がこのランニングタイムと有意な負の相関を示しました。さらに興味深いことに、このランニングの局面の直後に行われるターンに要する時間は、ターンに突入する直前のランニング速度と有意な正の相関を示しました(Hasegawa,1999)。

 つまり、このテストにおいてパフォーマンスを規定する要因は、ターンのすばやさよりもランニングスピードの大きさであり、それは、スタート時の大きな初速度と高加速度によって規定され、ターンに要する時間を少々犠牲にしてでもターン直前まで高速を維持することによって生み出されるということです。とはいえ、バランスを崩して転倒したり滑ったりという明らかなターン時間の遅延はマイナスとなり、高速でのターン突入にも限度があります。したがって、高速度でのターン突入においても極端に姿勢を崩さないだけの急停止・方向転換のための筋力や姿勢のコントロールは必要であるといえます。

 今回は、優れたスピードやアジリティーが生み出されるための要因を紹介しました。来月は、これらの要因の個々に焦点を絞って働きかけ、さらにそれらが関連した機能を発達させるためのトレーニング方法について検討し、いくつかの例を紹介します。