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2018.05.30コラム
スピード&アジリティーのトレーニング(2)

スピード&アジリティーのトレーニング(2)

― トレーニング種目と実施方法 ―

◆意識するポイントの明確化

 スピード&アジリティ-のトレーニングを効果的に進めていく上で重要なことは、そのエクササイズがスピードやアジリティーを規定する諸要因の中のどの要因に働きかけるトレーニングであるか、つまりトレーニング対象をコーチはもちろん、選手が十分理解してトレーニングを行うことです。そして、強調すべきポイントが、選手が行うトレーニング中の個々の動きにおいてどのように変化し改善されているのかを可能な限りモニターし、選手自身がそれらに集中して意識的にコントロールできるような場の設定やトレーニング方法の工夫が必要となります。

 強調するべきポイント以外の部分で順位の差がついてしまったり、勝ち負けが決まってしまったりするような形式での競争やタイム測定では、強調するべきポイントに対して個々の選手が意識を焦点化するためのフィードバック情報を得ることができず、ただがむしゃらに走るだけに終わってしまう可能性があります。

 

◆反応トレーニング 

 反応を速めるためのトレーニングでは、認知レベルでの情報処理時間を短縮するトレーニングなのか、それとも動作それ自体の正確な遂行時間を短縮するトレーニングなのかを区別します。認知レベルの反応を速めるトレーニングでは提示する信号の種類と選手が行うべき動作の結びつきを複雑にします。少し複雑な動作を正確に発現する時間を短縮するトレーニングでは、信号は簡単にし、動作が正しく、しかも速くできたかどうかをチェックできるような場を設定します。どこに跳ねるかわからないボールをどんな姿勢でもどちらの手でもいいからただキャッチすればよい、という反応トレーニングは前者の例です。パートナーが両手に持ったテニスボールを向き合った選手の右か左に落とし、つねに決められた方向の足の踏み出しと手の出し方(例えば常に反対の足を踏み出してバックハンドでキャッチする)正しく速く行うという方法は後者の例となります。

 


◆スタートトレーニング

 スタートにおけるすばやい姿勢コントロールと爆発的な筋力の発揮を目的をとしたトレーニングでは、反応における認知レベルで差がついてしまうような複雑な信号を提示したり、スタート後の加速で差がついたりしてしまうような10メートル以上の長い距離で競争させることはコーチにとっても選手自身にとっても強調するべきポイントがぼやけてしまいます。

例えば、ある姿勢からいくつかの方向へすばやくスタートするという選択反応におけるスタート動作の時間短縮を目的としたトレーニングにおいては、複雑な信号にたいする意思決定という認知レベルではなく、動作そのものがいかにすばやく発現できるかという運動レベルにポイント絞ってトレーニングできる場の工夫が必要となります。あきらかに識別できる複数の簡単な信号に対する動作の発現のスピードを競うようなトレーニング種目を設定する必要があります。



構えの姿勢から正面への反応を0度として45度ごとに斜め右、ま右、斜め右後ろ、真後ろ、斜め左後ろ、ま左、斜め左前というそれぞれの方向に、それぞれ左右の足でスタートするための動作をトレーニングしておく必要があります。体重が正しく均等に両足にかかった状態、意図的に体制を崩した状態、ゆっくりと歩行しながら、ジョッグしながら、サイドステップしながら、ゆっくりとバックペダルをしながら等々からこれらの方向へすばやくスタートを切ることを目的として一歩から5メートル程度で行います。明らかな弱い姿勢や方向があればその部分を集中的に行うことや、基礎的なコンディショニングのトレーニングを検討する必要があります。 スタートの速さを明確にするためのひとつの例としては、並んだ二人の間からボールを投げたり、蹴ったりして、ボールが出たのを合図に二人がボールを追いかけ、どちらが先にボールに追いつくかという方法があります。選手のポジションを交代することで一方向への反応となることを防ぐことができます。また、選手を2列にしておき、それぞれのペアで勝ったほうの選手は、2週目を行うときに、前のグループへ移動し、負けたほうの選手は後ろのグループへ移動するということを数回繰り返していくうちに、前方には速い選手が集まり、後方には遅い選手が集まるようになります。こうすることによって、ほぼ同じレベルのスタート能力の選手同士が常に競争できるようになり、集中力を高めることができます。

 

◆アジリティートレーニング 

 反応、スタート、加速、急停止、方向変換、最加速の連続としてのアジリティーのトレーニングでは、全体として走る距離と時間を短くし、どの部分で差がついたかを判断できるようにします。一見、すばやいステップのトレーニングに見えても、重心の大きな移動を伴わずにただ細かく足を動かしているだけのエクササイズをだらだらと長時間おこなっても、アジリティーは向上しません。

 前回紹介したプロアジリティーなどを行うときは、一人の選手の動き出しを合図に5名程度の競争形式で行うことができます。明らかに反応で有利な動き出しの選手がターン以降に遅れをとれば、その部分の改善が必要です。