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2018.05.30コラム
個人特性分析(2)

個人特性分析(2)

個人特性分析(2)

-測定と評価-

 プログラム・デザインとは最終的には、種目の選択、実施順序、強度や量の設定等々といったプログラム変数と呼ばれるトレーニングの構成要素を目的に合致するように操作することである。そのために、これからトレーニングをおこなう選手の取り組んでいる競技種目がもつ客観的特性と選手の個人的特性を分析することによって向上させるべき特性を明確にする作業がこれまで説明してきたニーズ分析である。今回はニーズ分析の最後の段階として行われる測定と評価について解説しよう。

 ニーズ分析の一環として実施される測定と評価には、様々な条件を統制して運動能力の特性やそれらの関連を解明するために行われる科学的研究のための測定とは少し異なる点が要求される。それは(1)簡便性、(2)再現可能性、(3)妥当性、(4)信頼性、(5)継続性、(6)安全性である。


◆簡便性

 同じデータが得られるのであればできるだけ時間をかけず簡単に測定できるほうが望ましい。準備に時間がかかりキャリブレーションや機器の設定に手間取り、安定性に欠ける測定は、明らかに選手のやる気を失わせ、信頼を失い、また今後も測定したいという意欲も喪失させる。少々高価であっても簡単に短時間で正確なデータが得られる項目と方法を選ぶようにする。機器の運搬やコードの接続や電源の設定に時間と手間のかかる大掛かりな光電管よりも、無線で乾電池を使用した軽量の赤外線による計時装置のほうがはるかに便利である。スピードやアジリティーの測定にはストップ・ウォッチでは信頼性が得られないのでこうした装置の選定が必要となる。また、コンピューターと接続したフォースプレート上でリバウンド・ジャンプを実施させ、その接地時間と滞空時間の割合からジャンプの効率、ひいては爆発的な脚筋力の発揮能力がわかるが、専用に開発されたマットとモニターのセット(ジャストジャンプシステム)があればコンピューターを立ち上げる手間なくすぐにどこででもコンディションをチェックすることが可能である。トレーニングの過程で選手のトレーニング状態をモニターする必要性を考慮すると、ニーズ分析として行う測定も可能な限り簡便な装置と方法で行うようにする。

◆再現可能性 

 測定を行うたびに基準が変わったり、他のチームや選手の測定と条件が大きく異なるような測定ではそのデータを比較に用いることはできない。土のグラウンドで測定したアジリティー・テストは、雨上がりのぬかるんだグラウンドや、ひび割れした乾燥状態のグラウンドとでは再現性が極めて低い。スプリント・スピードも風の影響で大きく変化する。過去と比較したり他チームの選手と比較するためには同じ方法で測定する必要がある。そのためには測定種目と方法の基準を統一するしかない。京阪神地域のアメリカン・フットボール界では数年前から全国レベルの複数の社会人と大学チームが共同でそうした試みを行っており、現場ですぐ使えるデータをポジション別パーセンタイル順位表としてまとめ、トレーニング目標の設定やトレーニング状態の確認、選手の動機付けに対してきわめて有効に活用されている。

◆妥当性

 何のために何を測定するか、によって測定項目と方法が十分検討されるべきである。一般に筋力測定においては1RMテストがよく用いられる。大腿部が床と並行になるまで腰を下げるパラレル・スクワットの1RM値はいわゆるスティッキング・ポイントといわれる膝関節が深く屈曲した位置の筋力に左右される。これに対して、例えばArielのCESマルチファンクションで測定されるスクワットのピーク値は膝関節角度がもっと浅い直立姿勢になる少し手前で最大値が得られる。スプリントのスタートから加速期の姿勢での股関節や膝関節に関する筋群の使い方と、中間疾走における最大速度の発揮と維持のための筋群の使われ方には相違があるという指摘や、柔道やレスリングなどで腰をほぼ一番下まで落とし、深く膝を屈曲した姿勢から脚と股関節を伸展させて立ち上がる筋力が重要であるという経験的判断に基づくならば、スクワット筋力やレッグプレス筋力の測定もどのような姿勢で行うか、そのために何を用いて行うかは十分考慮するべき課題である。

 さらに、スポーツ特性を考慮したニーズ分析のための筋力測定においては筋力発揮の速度や筋力の立ち上がり特性を重視する必要がある。フィットロダインという簡単な装置をフリーウエイトやウエイトスタック・マシーンに取り付けてできるだけ速く挙上するように指示して様々な重量でスクワットやベンチプレスをさせる。これにより、各重量での平均挙上速度が計測される。これにより平均パワーが直ちにわかる。1RMの大きさと軽重量を高速に加速させる能力とは異なることが示されている。こうした能力にかかわる適切なトレーニング目標を設定しそれに見合ったプログラムをデザインをするためにはぜひ行いたいテストである。

◆信頼性

 測定で得られる値がどれだけ客観的に信頼できるかどうかは、選手のコンディション、機器類の精度、測定者の能力、測定のプロトコルによって決まる。選手のコンディションに関して、シーズン直後の疲労の蓄積した状態や逆に長いオフの後のトレーニング開始直後あるいはトレーニング経験が極めて浅い選手の場合正確な能力が測定されない。メジャーによる周径囲の測定やキャリパーでの脂肪厚の測定は習熟した測定者ができるだけ少人数でできれば複数回測定する場合は同じ人が行うことが望ましい。測定の順序もテストの信頼性に大きく影響する。基本的にはジャンプ、アジリティー、スピードなどの測定を最初に行い、パワーや筋力の測定を次に行い、局所筋持久力や全身持久力の測定は最後に実施する。数10名の選手の測定を一度に実施する場合、1種目に2回~3回の試行ができるとして、1回目全員が終わってから2回目を実施するという方法をとると、休息時間が長くなりすぎる場合がある。それを防ぐためには4名~5名を1グループとして構成し、種目によっては2グループが1つになって決められた順序に種目を移動するという方法をとるとうまくいくことが多い。

◆継続性

 ニーズ分析で実施する測定は、競技に必要とされるスピードや筋力などがそれぞれどのレベルにあるのかを確認するための手段である。その結果によって来月号で検討するトレーニングの目標を何に絞るかが決定される。したがって、プログラムの進行に応じて目標がどこまで達成されているのかを確認するために継続して測定するべきである。昨シーズンと比較して今シーズンの目標をどこに置くかという課題に明確に答えるためにも昨シーズンと同じ測定が実施される必要がある。最初の目標が達成されれば速やかに新たな目標にプログラムの重点を移行させていくことが可能となる。例えば一定レベルの筋肥大と1RMの大きさと全身のパワーとスピードが必要な競技の選手が同じポジションの選手と比べて遜色のない体型と体組成を達成し、スクワットで体重の1.5倍、ベンチプレスで体重の1.3倍程度を達成しているとしよう。しかしクリーンのテクニックが未熟で大きな重量を扱えず、スピードも特に前進が見られないとするなら、今後この選手に必要なことは全身の爆発的なパワーを発達させるためのクリーンのテクニックの習得と使用重量のアップおよびスピードのトレーニングに時間を割くことである。限られた時間を無題にしないためにも客観的な指標を継続して得るための測定を行う必要がある。

◆安全性

 トレーニングのニーズ分析においてはこれからトレーニングを行う選手のリフティング・フォームやスプリント・テクニックの確認とあわせてトレーニングの一環として測定を実施することが多いため、特にチームスポーツでは選手同士の競争心や仲間からの声援あるいは指導者に対するアッピールなどからかなり無理をすることがある。したがって安全性の配慮には特に留意しなければならない。適切なウォームアップはもちろん、ケガをしやすい種目においては測定方法を工夫する必要がある。フリーウエイトによる1RM測定はスクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどのコア種目に限定するべきであるが、フォームが安定しておらず特に高重量を支えるための腰背部の筋力が十分発達していない初心者では1RM測定も実施しないほうが無難である。4回~5回以上で反復可能な重量での反復回数から1RMを推定する方法を採用したほうがよい。2回~3回しかできない重量も避けたい。フォームが少しでも崩れたら回数に入れないようにする。推定するための公式はいくつか存在するが、私が用いているものはBoyd Eplyの公式である。[推定1RM=0.033×用いた重量×その重量での反復回数+用いた重量]で求められる。20回を越えると不正確となるのでそれ以下となるように試行重量を調整する。表2にこの公式によるパーセンテージを示した。