強度設定 | S&Cスポーツ科学計測テクノロジー スポーツパフォーマンス分析

NEWS新着情報

2018.05.30コラム
強度設定

強度設定

エクササイズの強度設定

 

専門誌ではない一般向けのファッション雑誌や健康づくりの書籍においても、よくレジスタンス・トレーニングのエクササイズが紹介されている。しかし、個々のエクササイズをどれくらいの重量を用いて行うべきかについては触れないまま、反復回数だけを指定しているものや、一律に何キロでやるようにと指定しているものが時々見受けられる。これでは、個人的な条件の違いや目的の違いに応じた効果的なトレーニングに進めていくことはできない。レジスタンス・トレーニングのプログラムを作成するにあたっては、使用するウエイトの重量設定にかかわる「強度」というプログラム変数の操作を慎重に行う必要がある。今回からこの強度について解説していく。

◆強度とは何か?

 ストレングス&コンディショニングの領域における強度とは何か?一般的には、レジスタンス・トレーニングにおいては、使用するウエイトの重量、空気の圧力、チューブやバネの張力、プライオメトリクスではボックスやハードルの高さ、ウエイトベストなど付加的なウエイトを身につける場合はその重量、スプリントやランニングでは速度(同じ距離ならば時間)、坂道ダッシュなら傾斜といったものの大小・高低をさして、強度が高いとか低いと言っている。しかし、より正確に強度を設定するためには、もう少し厳密に強度を規定する必要がある。

 (1)物理的強度と生理的強度

 強度はまず、物理的強度と生理的強度に分けることができる。前者は客観的な物理量としての質量(kg)、高さ(cm)、速度(m/s)、時間(s)等によって表すことができる。後者は運動時心拍数(bpm)や血中乳酸濃度(mmol/l)が代表的である。

 レジスタンス・トレーニングにおいて物理的強度はウエイトの重量そのものであり、生理的強度にあたるのは厳密にいうと、筋活動によって身体が発揮する力(N)やパワー(Watt)ということになる。しかし一般的には、最大挙上回数とよばれるRM(Repetition Maixmum)という単位で強度が表現されることが多い。これは、その重さで最大何回連続して持ち上げることが可能か、逆に言うと、指定した回数を連続して持ち上げることの出来る最大重量は何キロかという意味である。したがって例えば10RMというのは、ぎりぎり10回挙上することのできる重量のことであり、50kgで8回しか上がらなければ50kgという重量は8RMであるという。

 (2)絶対的強度と相対的強度

 強度はまた、絶対的強度と相対的強度に分けられる。これは物理的強度に対しても生理的強度に対しても適用できる。絶対的強度は物理的・生理的強度で示される個人の最大値であり、相対的強度はそれらの値に対する%で示される。例えば、ランニングスピードの物理的な相対的強度は、1000m走のベストタイム+20秒とか、スタートから7秒で到達できる距離-5m地点とかいうようにして設定することができ、生理的な相対的強度ならば最大心拍数の80%というように設定する。レジスタンス・トレーニングにおいては最大挙上重量の%によって示され、生理的な相対的強度はRMの%によって示される。

 このように強度の表し方には様々な方法があり、それぞれの持つ意味と生体に対する刺激の強さの違いに注意した上で、コーチの使いやすさや選手のわかりやすさを考慮して使い分けていく必要がある。

◆レジスタンス・トレーニングの基本的な強度設定法

 ウエイトを用いたレジスタンス・トレーニングにおいては、一般的には次の4種類の強度設定が利用されている。

(1)ウエイトの重量そのもので設定する方法

 これは、何kgで行うかを直接指定する方法である。トレーニングする人の経験やレベルがほぼ均一で、適切な負荷レベルがほぼ同じであるような場合に用いる。例えば高齢者の導入期に1kgのダンベルを用いる場合や、ある程度トレーニング経験を積んだ大学の野球選手のローテーターカフのエクササイズに2kgを指定するような場合である。

(2)最大挙上重量(=1RM)に対する%で示す方法

 これは、%1RMと表記することもある。あらかじめ測定した、あるいは推定した1RMに%値に該当する少数を掛けることで設定する。少数点で半端が出た場合は使用するトレーニング機器の最小調節値に合うように、切捨てまたは切り上げる。例えばフリーウエイトでのベンチプレスの1RMが82.5kgだった場合、その75%は61.875kgになるが、フリーウエイトの最小プレートが1.25kgである場合、それが2枚で2.5kgとなるので、60kg、または62.5kgとする。マシーンの最小プレートで1kgが設定可能なら62kgということになる。ただし、実際は施設のプレートの枚数やカラーの重量あるいは計算の容易さを考慮してもう少しラフに重量設定することになる。

(3)最大挙上回数(RM)で示す方法

 チーティングとよばれる身体の他の部分を使ったり反動を用いたりせずに正しいフォームと一定のリズムを維持して連続的に挙げることのできる回数をいう。原則的にはアップ後の1セット目でぎりぎり挙げることのできる重さである。したがって複数セットの全セットで規定回数が挙上可能な重量と1セットだけ可能な重量とは異なり、後で触れる休息時間の長さや挙上のスピードによってもこの値は異なる。トレーニングの目的と採用する方法によって厳密に設定しなければならない。

(4)特定のRMに対する%という方法

 例えば80%6RMという場合、その選手の通常の6RMが100kgならその80%すなわち80kgでやりなさいということになる。これは、RM法によるプログラムを提供している場合で1週間の中で強弱の変化をつける場合に用いられている。

◆最新の強度設定法

 こうした従来の強度設定法に加えて、私は選手によって実際に発揮されている筋活動そのものの大きさに着目した特別な強度設定法の利用を研究している。それは、筋活動によって身体が発揮する力そのもの、あるいはパワーそのものを強度としてトレーニング中にモニターする方法である。ランニングのトレーニングにおいて心拍数や血中乳酸値を指標として強度を設定することによって、より効果的なトレーニングを行おうとするのと同じアイデアだと考えてもらってよい。

 同じ重さのウエイトを挙上する時でも挙上速度を速くしようと加速すればするほど大きな筋力が必要となることがわかっている(F=ma)。大きな筋力を発揮してウエイトを加速することにより挙上速度が速くなればなるほど発揮パワーも大きくなる。したがって、ウエイトを挙上する速度を特殊な装置を用いてモニターすることによって、発揮しているパワー(間接的には筋力そのもの)を1回ごとに測定できれば、その値を強度として設定することが可能となる。

 あらかじめ一定の重量におけるパワーや速度の最大値を測定しておき、それに対する%で強度を設定し、実際のワークアウトにおける挙上動作中のパワーや速度をモニターしながらその値を選手にフィードバックし、最適なトレーニング状態をコントロールしていくのである。

 写真1にこうしたアイデアをもとに開発されたレジスタンス・トレーニングの動作速度をトレーニングの現場で簡単に測定するための装置を示した。

 図1にはこの装置を用いて週3回10RM×3セットで6週間にわたるベンチプレス・トレーニングを行った大学生投擲選手の使用重量の変化と速度の変化を示した。使用重量つまりRM値はほとんど変化していないが、速度は大きく向上している。一方、図2には、速度について全く指示しなかった選手の場合を示した。確かにRM値は着実に増大していくものの、挙上速度はほとんど変化していないか、むしろ低下傾向にある。その結果、図3から明らかなように、速度のフィードバックを与え速く挙上するように指示した選手のパワー値は著しく増大したが、自由な速度でトレーニングした選手のパワーにはほとんど変化が見られなかった。

 これまでにも素早く挙上するということがパワー向上との関係で強調されることはあったが、プログラム・デザインにおいて厳密に操作されるべき変数としての強度設定の対象としてはみなされず、選手まかせとなっていた。そのためトレーニング効果が明確にならず、結局は高重量を追い求めることだけに終始していたと言える。

 今後、こうした動作速度測定装置を用いることによって、パワー系の選手のジスタンス・トレーニングの強度設定において、速度という要因が重要な位置を占めるようになり、それに伴いプログラム・デザインやピリオダイゼーションにもこれまでにない新たなアイデアが生かされるようになるであろう。

◆強度設定法の関係

 プログラム・デザインにおいて、以上のどの方法を用いるかということを正しく判断するためには、それらの関係についてよく理解しておく必要がある。

(1)個人内変動

 ウエイトの客観的な重量とRMの関係が個人間で異なることは容易に理解できるだろう。同じ50kgで10回あげられる人もいれば3回しかあげられない人もいる。注意するべきことは個人内でもこの関係は変動するということである。1RMの%で強度を設定する際、トレーニングを始めて間もない頃は1RMの向上率が極めて高い。したがって、長期にわたって、最初に測定した1RMを基準にしていると実際に使用する重量が想定したよりもかなり軽いということがよく起こる。逆に、試合シーズン直前の1RMを基準として、数ヶ月におよぶ試合シーズン中にレジスタンス・トレーニングを実施しなかった場合には、1RM は明らかに低下していることが多い。そのままの値で強度を設定してしまうと高すぎることになる。したがって、頻繁に1RMを測定する必要がある。それが不可能な場合には、%1RMだけで強度設定することは避けなければならない

(2)%1RMとRMの関係

 次に注意する必要があるのは、1RMに対する%とRMの関係である。1RMに対する%が小さくなればなるほど、その重量で挙上可能な回数すなわちRMは増大する。一般的には、例えば表1のような関係が成り立つとされているが、これはあくまで目安であって、実際にはこうした関係がすべての筋群とすべての種目そしてすべての人に当てはまるわけでは決してない。トレーニング初期の試行的な重量設定や1RM測定の困難な初心者やそのための条件が整っていない場合にRM値から1RMの重量を推定するための参考とする程度にとどめる必要がある。これは推定のための公式(8月号「個人特性分析②測定と評価」参照)を用いる場合も同様である。

(3)個人差

 一般的に、トレーニング経験の豊富な人は初心者に比べて同じ%を用いても挙上回数は多くなる。また、持久系の競技選手でタイプⅠという持久性にとんだ特性をもつ筋線維の割合が多い選手はそうでない選手と比べて同じ%でも驚くほど多くの回数を挙げることが観察されている。

(4)エクササイズ種目と様式

 大きな筋群を用いる種目では小さな筋群を用いる種目に比べて同じ%の重量を用いてもRM値は大きくなる。例えば1RMの80%でレッグプレスを20回出来てしまうようなトライアスリートでも、レッグエクステンションでは10回しかできないという事がある。さらに、マシーンとフリーウエイトでもこの関係は異なる。フリーウエイトによるスクワットの1RMに対する80%で5回しか出来ない選手でも、マシーンによるスクワットの1RMに対する80%では10回できるという場合がある。これは、各関節位置での筋に対する負荷のかかり方の違いや姿勢のコントロールそしてバランスといった要素が両者で異なるからである。

(5)挙上速度

 ウエイトを挙上する速度によっても、同じ重量に対する挙上回数は異なる。例えば通常の速度では10RMであっても、1レップずつ常に最大速度で挙上するように努力すると10回以下になるということが生じる。また、逆に通常の速度よりも極端に遅い速度で挙上・下降をおこなうと、この場合もまた10回挙げることができなくなる。

 前者の場合、挙上回数が少なくなる理由としては次のことが考えられる。ウエイトの重量が同じでもそれに対する加速度が大きくなることから、筋はより大きな力を高速で発生しなければならなくなり、その結果大きな力を高速で発生することができるが疲労しやすいモーターユニットの疲労が早期に生じ、しかも通常の速度では動員されにくい予備的なモーターユニットも動員され、それらの早期疲労が進行するとともに、そのウエイトを挙上するのに必要な筋活動エネルギーも供給できなくなる。

 後者の場合は、発生する力そのものは決して大きくないが、筋の活動している時間が長くなることによって、持久性の乏しいモーターユニットが疲労し、全体としての筋活動のためのエネルギーの消耗も時間が長くなることによって増大し、筋活動のためのエネルギー供給が低下する。

 いずれの場合も通常の速度で実施する際のRM値よりは下回るという点では共通しているが、両者のトレーニング効果は大きく異なる可能性があるので、注意が必要だ。

(6)休息時間

 休息時間には、大きく分けてセット間の休息時間とセット内の休息時間がある。セット間の休息時間が長くなると(3分~5分)、複数セットを実施する際にすべてのセットで設定した回数をこなせる重量は大きくなる。セット間の休息時間が短くなると(30秒から1分)1セット目でぎりぎり挙げられる重量に設定した場合、2セット目からは同じ回数を挙げられなくなる。

 セット内の休息時間は、レップ間の休息時間といってもよい。要するに1回挙げるごとのポーズの時間である。ベンチプレスで腕を完全伸展して休む時間、スクワットで立位姿勢で呼吸を整えて休む時間、ラットプルダウンで腕を伸ばしてバーにぶら下がったような姿勢で休む時間などである。

 このポーズの時間が0秒かそれとも10秒かという違いが同じ重量に対する挙上回数に影響する。それはまた挙上速度にも影響する。したがって発生する力の大きさに影響し、動員されるモーターユニットの数と種類に影響する。すなわち、長期的にはトレーニング効果の違いとなってくるのである。

 以上のレジスタンス・トレーニングの強度設定に関する基本的理解を踏まえることにより、トレーニング目的、エクササイズ種目、選手の個人特性、トレーニングの時期(ピリオダイゼーション)そして管理的条件に応じて、どの強度設定法を採用し、どのような強度をいかに提示するかについて検討することが可能となる。次回以降、これらの視点に則してどのような強度をいかに設定するかについて具体的に解説していく。