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2018.05.30コラム
強度設定(2)

強度設定(2)

トレーニング目的と強度

 レジスタンス・トレーニングにおける強度設定法とその表し方については、前回説明したようないくつかの方法があるが、実際にどの方法を用い、どのような強度を設定するかはトレーニング・プログラムの目的によって決まる。今回は、トレーニングの目的に応じた強度の設定について詳しく説明する。

◆レジスタンス・トレーニングの目的

 目的と強度の関係を正確に理解していただくために、最初に、少しトレーニングの目的について見ておこう。

 スポーツのためのストレングス&コンディショニングの目的は、パフォーマンスの向上と障害予防であるが、それを受けて取り組まれるレジスタンス・トレーニングの具体的な目的には、(1)最大筋力の向上、(2)パワーの向上、(3)筋肥大、(4)筋持久力の向上、(5)筋力の立ち上がり速度(RFD)の向上、(6)結合組織の強化がある。

 それぞれの目的に応じて適切な強度を設定する必要があるが、これらは相互に関係し合っており、ひとつの目的を達成するためには、そのためのトレーニングに先んじて他の目的を追求する必要があったり、ある目的を追求していくことで他の目的とする能力もある程度向上させることが可能であったり、あるいいは逆にある目的の追求と他の目的の追求が相反する場合もある。

◆目的間の相互関係

(1)爆発的筋力と最大筋力

 例えば、パワーや筋力の立ち上がり速度の向上といった爆発的筋力全般を高めることを目的として、ジャンプ・スクワット、クリーンといったエクササイズをおこなっていく場合でも、その選手の最大筋力レベルがあまりにも低いと、そうしたトレーニングによる爆発的筋力の向上はあまり期待できない。まず最大筋力を高めることこそが、パワーや筋力の立ち上がり速度といった爆発的筋力の向上にとっては最も効果的となる。

 また、結合組織が十分強化されていない状態でそうしたエクササイズに取り組むことはトレーニングにおいてケガをする可能性を高めてしまう。

 最大筋力レベルがある程度高くなり、骨や靭帯などが十分強化されてきた段階で、特に爆発的筋力を向上させる必要がある場合にそうした目的を追求する特別なトレーニングに取り組むことが効果的となる。

(2)筋肥大と最大筋力・パワー・RFD

 また、トレーニングを始めて間もない頃に最大筋力向上を目指したトレーニングを実施してある程度成果が見られても、十分な筋の肥大が伴わない場合にはトレーニングを中断するとすぐまた元に戻ってしまうということが起こる。逆にトレーニング初期の筋肥大には必ず最大筋力の向上を伴い、トレーニングの中断によってもすぐに筋力が元のレベルまで低下してしまうということもない。したがって、長期的に見て筋肥大も最大筋力向上もどちらも必要という場合には、まず筋肥大を追及することが妥当ということになる。しかし筋肥大を追及し続ければ自動的に筋力が向上し続けるというわけではなく、あるレベル以上になると最大筋力の向上は停滞し、場合によってはパワーやRFDは低下することすらある。

(3)筋持久力と最大筋力と筋肥大

 筋持久力についてはどうか。競技中の動作において最大筋力の80%程度以上を発揮しなければならないような種目、例えばラグビーのスクラムや高重量物を運搬するような競技においては最大筋力の向上によってその競技に必要な筋持久力も向上する。したがって特に筋持久力の向上のためのトレーニングを実施する必要はない。逆に最大筋力の20%程度以下しか発揮しないようなマラソン・ランナーにおいては最大筋力を向上させることは筋持久力の向上にはあまり役立たない。また筋肥大は毛細血管やミトコンドリア密度の減少につながり、筋持久力の向上にとって良い影響を与えない。

 競技中に発揮する筋力が最大筋力の20%以上で80%以下であるような自転車競技のヒル・クライムやボート競技などにおいては、最大筋力と筋持久力の双方の発達を目的とするべきある。

 このようなレジスタンス・トレーニングの目的の相互関係を踏まえた上で、以下の目的別強度設定の内容を理解していただきたい。


◆最大筋力

(1)最大筋力向上のための強度

 最大筋力を高めるための強度は十分高くなければならない。6RM以上・1RMの85%以上というのがひとつの基準である。速度は、最大速度から少なくとも最大速度の80%以上を維持した高速での反復が必要である。これ以下の強度でももちろん最大筋力は向上するが、十分な成果を狙う場合にはこの程度の強度を設定する必要があるだろう。さらに強度をあげて、3-5RM・93-87%1RM、あるいは1-2RM・95%1RM以上というほぼ最大の強度によってさらに最大筋力向上効果が期待できる。通常のトレーニングではまず動員されることのない閾値の高いモーター・ユニットを動員し、高発火頻度で活動させるためには最大下の強度では不可能である。特に、筋力向上率が小さくなってきた十分トレーニング経験のある選手がその停滞を打ち破って最大筋力をさらに向上させるためには、こうした高強度でのトレーニングが不可欠である。さもないと筋の肥大は維持できても最大筋力が低下したり、まったく向上しなくなることがある。

(2)高強度に対する注意

 ただしこうした90%-95%1RM以上の高強度を1ヶ月以上の長期間にわたって継続したり、1週間のすべてのワークアウトですべての種目に適用するということはケガの発生率とオーバー・トレーニングのリスクを高める。また1回ごとのリフティングに際して極度のモチベーションを必要とするため早期のバーン・アウトを招くことがある。特にスクワットやデッド・リフトといった種目はベンチ・プレスやショルダー・プレスと比べて同じパーセンテージの強度を用いても極端に疲労が大きいので注意が必要である。したがって、エクササイズ・テクニックが十分完成し、脊柱起立筋や多裂筋などの脊柱を支える筋群と腹圧を高めるための深部の腹筋群が十分発達したトレーニングの最終段階において、1週間のワーク・アウトに強弱の変化をつけて採用するべきである。また試合直前のピーキング期やイン・シーズンの最大筋力維持の目的でこうした高強度を設定することが必要となる場合もあるだろう。

◆パワー

(1)パワー向上のための強度

 力×速度として表されるパワーを高めるために最も効果的な強度は、目的とする動作や用いる器具によってかなりの幅がある。

 最大パワーそれ自体が得られるのは、フリーウエイトによる1RMのはほぼ50%から60%の重量をできるだけ速く持ち上げようと努力したときに得られる。しかし必ずしもこの強度が最大パワーの発達にとって最も効果的ということにはならない。十分な証拠が揃っているわけではないが、パイロット的研究と経験的事実から、ほぼ1RMの75%程度、ほぼ10RMに相当する重量を最高速度で挙上するという強度が最低ラインであると考えられる。ただし、ぎりぎりの10回まで反復するのではなく、5回から7回程度でセットを完了するという方法を取る。疲労によってテクニックが乱れ、速度が極端に低下した状態で反復を継続しても効果は少ない。

 トレーニング目的がスプリントやジャンプの連続といった反復性の動作におけるパワーの向上を目的としている場合に、こうした強度設定を用いるすることが多いが、砲丸投げや円盤投げなどの投擲競技やバッティングのように単発的な動作におけるパワーの向上を目的とする場合は、80%から90%程度の重量を最高速度で1回から2回程度挙上するという方法も極めて効果的である。

 パワー向上のための強度設定においては1RMに対するパーセンテージで挙上可能な通常のRMの回数よりも少ない回数で行うという点に注意する必要がある。



 (2)高重量とパワーの発達

 このように比較的高重量で強度設定することがパワーの発達にとって効果的となる理由を次のように考えている。ウエイトを挙上し始める時は常に速度はゼロである。この上げ始めの加速度が大きければ大きいほど速く高速に到達するわけだから、最大筋力の向上に必要な強度を負荷することによって上げ始めの低速時の筋力を高めることが可能となる。それによって上げ始めの加速度を向上させることができる。それとともに、一旦加速したウエイトをさらに高速で加速するための高速域での筋力を高めるには、あまり軽量のウエイトを用いると挙上動作の終盤でウエイトを減速させるための時間が長くなり、かえって逆効果となる。ある程度の高重量を用いることによってこの局面を最小限にすることができる。それにより、可動域全体にわたってより高速でウエイトを挙上できるようになると考えられるのである。

 オリンピック・リフティングの各種目とそのバリエーションを種目として採用することによって、こうした高重量での高速リフティングが比較的安全かつ効果的に実施できる。

 空気圧を利用したカイザーのようなマシーンでは、ウエイト・スタックやフリーウエイトとは異なり低負荷時の高速動作後半における減速期が短い。したがって、最大強度の50%程度の強度を設定することによって、動作後半部の可動域における高速での筋力発揮特性を発達させるのに効果があるようである。

 さらに軽量のバットやボールなどを加速させるための高速での筋力発揮特性の発達を目的としたメディシンボール・エクササイズや自己の身体である体重を高速で移動させるためのアジリティーやプライオメトリクスのエクササイズでは、ボールや身体を動作の終盤まで加速し続けて実際に投射する(跳び出す)ことが可能な強度を設定する必要がある。重すぎる負荷ではこのことが不可能となる。


◆筋力の立ち上がり速度

 筋力の立ち上がり速度を高めるための強度にもエクササイズのやり方によってかなりの幅がある。

 極端に言えば、「素早く筋力を立ち上げよう」という強い意識をもって動作が反復されるのであれば、100%強度以上すなわち1RM以上の重量に対するアイソメトリック負荷によっても、スタートから100ミリ秒~300ミリ秒という初期の筋力を向上させることが可能である。しかし、かなりトレーニングを積んだ選手であっても、通常はそうした高重量を挙上する際、動作の初期にいきなり急激に最大限の力を立ち上げていくということはできず、じわじわと筋力を発揮する。さもないと、筋の張力が効率よく腱に伝達され関節を動かして外的な仕事としてウエイトを動かす前に急激に発生する力の反作用に対応することができなかったり、腱の急激な伸張から生じるゴルジ腱反射によって逆に急激な筋力の立ち上がりが抑制されてしまったりする。

 したがって、むしろ瞬間的に加速させやすい1RMの50%程度のウエイトを用いて、最大限の高加速度を生じさせるように挙上するトレーニングによって、動作開始初期に全身をうまくコーディネイトさせて力の発揮を集中させる能力が効率よく向上できるのかもしれない。したがって、逆によくトレーニングされた選手の場合には、90%程度の高負荷を用いた動作初期に最大速度を発揮しようと意識して行われる2回から3回の反復によって、50%程度の軽負荷を速く動かすトレーニングよりも筋力の立ち上がりが向上するということが生じるのである。

◆筋肥大

 筋肥大のための強度は最大6RM~最小12RMの間の強度とするのが最も妥当である。

 パーセンテージではほぼ65%~85%の間である。筋肥大を効率よく起こすためには、動作速度も比較的遅くし、1回のワークアウトにおける筋タンパクの総分解量と乳酸の蓄積を高め、成長ホルモンやテストステロンといった筋タンパク合成ホルモンの分泌を刺激する必要がある。したがって、高強度は、1セットあたりの反復回数とセット数の多くをこなすことができず、全体としての機械的仕事量が結果的に少なくなってしまうため、筋タンパクの総分解量を増やすことが困難となるため筋肥大には適さない。また、高強度では、1セットあたりの運動時間が短くなるため、筋タンパク合成ホルモンの分泌を刺激すると考えられている乳酸の血中濃度が上昇しにくい。さらに休息時間がどうしても長くなるため、その間に乳酸の有酸素的な処理が進行すやすい。

 逆に20RMを超えるような軽負荷では多くの反復が可能となるため機械的仕事量を増大させることはできても、1回の挙上動作による筋タンパクの分解速度が遅いため全体としての筋タンパク分解量を多くすることが期待できない。結果的に、6RM~12RMという中間の強度が最も効率よく1回のワークアウトにおける筋タンパクの分解を促進し、休息時間においても不完全回復状態で複数セットをこなすことが可能となるため、最も筋肥大を刺激する強度ということになる。

 こうした中間の強度を用いてゆっくりと動作することは、可動域の全体にわたって張力を発揮し続けなければならないため、多くの筋線維を刺激することになる。そして筋が張力を発揮している時間が長くなるため、反復の過程で疲労したモーター・ユニットに換わって新しいモーター・ユニットを次々に動員しながらそれ以上挙がらなくなるまで挙上動作を繰り返していく過程で最大限のモーター・ユニットを動員できる。そのこともより多くの筋線維を刺激することにつながり、筋肥大を促進する。この観点から見れば、スロー・トレーニングは有効といえる。ただし高域値のモーター・ユニットを高速で最初から動員するような爆発的筋力発揮の特性を向上させる効果は少ないようである。

◆筋持久力

 冒頭の部分でも述べたように、長時間発揮し続けなけばならない筋力の最大筋力に対する割合が比較的高い場合には、筋持久力は最大筋力の向上によって容易に改善される。しかしそうした高重量ではなく、筋持久力の向上を直接目的として取り組まれるトレーニングが必要となる場合は通常15RM以下の軽量負荷を用いて最大限の反復を繰り返すことになる。1RMに対する割合はほぼ60%程度となる。速度やリズムは目的とする動作に合わせる必要があるかもしれない。動作の反復における主動筋と拮抗筋の緊張と弛緩のリズムが血流や乳酸の蓄積と処理に少なからず影響すると考えられるからである。水泳のストローク、スケート、ボートのロウイング、自転車競技のヒル・クライムなどの筋持久力を高める目的で行われるトレーニングでは、実際の動作におけるリズムと強度を考慮して、持続時間的にも1セット5分~10分といった長時間のセットを実施する。無酸素性のエネルギーを利用し早期疲労しやすい高閾値の速筋性のモーター・ユニット(タイプⅡ)をできるだけ動員することなく、有酸素的なエネルギーを利用しする持久性に富んだ低閾値の遅筋性のモーター・ユニット(タイプⅠ)をできるだけ多く繰り返し刺激するのである。

 こうしたトレーニングは、乳酸濃度が上昇した状態であえて無酸素的な高強度筋活動を継続する筋持久力の向上を狙ったトレーニングとは区別される必要がある。こうしたいわゆる乳酸耐性を高めるためのトレーニングでは、動作の初期に8RM~12RM程度の強度を用いて30秒から40秒ほど繰り返し、それ以上挙上できなくなるまで追い込んでから、強度を少し下げてさらに30秒、40秒と時間を設定して繰り返す。

 レスリングや柔道などの格闘競技における筋持久力トレーニングにおいても、有酸素的な遅筋線維の持久性を向上させるというよりも、1セットの中で、あらかじめ設定した比較的高強度での反復が困難になった段階で直ちに重量を減らして挙上可能な強度でさらに反復するという方法を繰り返して一定時間筋力を発揮し続けるというトレーニングを行う。コンセントリックな挙上局面は補助者に助けてもらって挙げ、エクセントリックな下降局面のみ、筋力を発揮するというエクセントリック筋持久力の強化を強調する方法もある。こうした格闘技系の筋持久力トレーニングにおいては初期強度は最大筋力に近い高強度からはじめ無酸素的エネルギーを利用するタイプⅡの速筋線維をまず疲労させてしまってから残っているタイプⅠの遅筋線維だけでできるだけ大きな力を発揮しつづけるという特性を強化することになる。


◆RMの連続体

 表1に、以上の説明を整理するために目的別の強度設定のためのRMと1RMに対するパーセンテージおよび挙上速度をまとめた。ここで示されたRMの数字は主にそれぞれの目的達成のために最も効果的であると考えられているものであるが、決して他のRMではそうした効果が全く望めないというわけでは決してない。より高強度のRMでもより低強度のRMでもある程度の効果が期待できる。トレーニングの具体的な目的や目標、それらの優先順位、選手のレベル、レップ数、セット数、種目、種目数、種目の配列、休息時間、週頻度などの他のプログラム変数やピリオダイゼーションの時期との関係である程度の幅を持たせて適切な強度を設定することが可能であることを示している。