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2018.05.30コラム
頻度

頻度

 ストレングス&コンディショニングのプログラムデザインとは、トレーニング目標を達成するために、プログラム変数を操作することである。今回は頻度というプログラム変数について解説する。

 

◆頻度とは

 ストレングス&コンディショニングのプログラム・デザインにおけるプログラム変数としての頻度とは、1日あるいは一定期間内のワークアウト(セッションも同義語)の回数をさす。言い換えればワークアウトとワークアウトの間のレストピリオドのことである。

 通常、30分以上のレストピリオドが間に入ると、1回の独立したワークアウトであるとみなす。したがって、例えば朝9時から12時までぶっ続けてワークアウトを行うなら1回3時間のワークアウトだが、もし9時から10時30分までワークアウトを行い、30分間休息を取った後、11時から12時まで再びワークアウトを行ったとすると、午前中にそれぞれ1時間半と1時間という2回のワークアウトを実施したと数える。

 学生や社会人のスポーツでは普通1日1セッションだが、合宿や休暇時にはセッション数が増加する。1回のワークアウト時間の延長だけならセッション数は増えない。逆にトータル時間が同じでも30分以上の休息を入れてそれを分割することによってセッション数は増える。

 セッション数の増加の意義は休息を取ることによって回復を促しつつ、質の高い刺激を加える回数を増加させることにある。


◆一般的なレジスタンス・トレーニングの頻度 

 トレーニングのミクロサイクルは普通1週間単位で進行する。したがってレジスタンス・トレーニングの頻度は1週間の回数で考えることが多い。週に何回どれくらいの間をあけてトレーニングのセッションを組めばよいかというのが頻度の問題となる。

 一般的にはレジスタンス・トレーニングの回復には48時間を要するということから、月・水・金または火・木・土の1日おきに行う週3回が基本であるとされている。条件が揃えば、月・水・金・日・火・・・というように確実な1日おきでスケジューリングすることが可能だが、実際は金または土から次のセッションまでは2日空けることが多い。また、強度が高いと回復には72時間程度かかるということから中2日の休息をとって週2回程度となる。この場合も厳密には中3日の休息を開ける日が生じる。

◆頻度設定の実際

 一般的には週2回または週3回という頻度がよく用いられており、この方法がテキストや講習会でも紹介されることが多い。しかし実際はもっと複雑な問題を含んでいる。

 例えば、1日おきの週3回よりも1週間に4日連続で行って3日間休むほうが筋力向上効果が高いという研究報告がある。また、週2回と週3回ではトレーニング効果には差がないというものや、週2回では筋力は向上したが筋肥大は生じなかったというものもある。また、週1回では筋力の維持効果はあっても向上はしないというものと、逆に、週1回でも週3回のトレーニングで示される効果の3分の2程度の効果は得られるという研究報告もある。

 ウエイトを扱うスポーツ競技種目としてのウエイトリフティング選手のトレーニングは、週に5日~7日というのがほぼ常識である。ボディービルダーもレベルが高くなると週に5日~7日行う。

 このように、レジスタンス・トレーニングは週3日という一般論にとらわれる必要性は全くない。


◆スプリット・ルーティーン 

 筋肥大を目標としたトレーニングを行う場合、ひとつの筋群に対してさまざまな方向や角度からできるだけ多くの筋線維に刺激を加えることと、一回のワークアウトでひとつの部位の筋タンパク総分解量を多くする必要がある。そのためには、どうしてもひとつの部位に対するエクササイズ種目が増える。このことは、もし全身の筋群に対してこれを実行すると、一回のワークアウト時間が長くなる、疲労のために全てのエクササイズをこなすことが事実上不可能になるという事態を生む。

 そこで、ある程度経験を積んだ選手では、スプリット・ルーティーンという方法を採用することが多い。これは特定の身体部位を1回のワークアウトに振り分けることにより、部位を限定して集中的にトレーニングするという方法である(表1)


 例えば月曜と木曜に下半身を行い、火曜と金曜に上半身を行うという方法である。

 さらに身体部位を細かく分けて、腕、脚、腹の3箇所は月、水、金にトレーニングし、胸、肩、背は火、木、土に行うというスプリット・ルーティーンも可能である。この方法だと、毎日レジスタンス・トレーニングを実施することになるが、各部位の集中的トレーニングは週3回となる。

 月曜日は下腿・脚・肩、火曜日に胸・バイセプス、そして水曜に背中・トライセプス・腹の種目を集中して行い、木・金・土もこれを繰り返すという方法もある。レジスタンス・トレーニングの頻度は週6日連続だが、ひとつの部位に集中するのは週2回の頻度となる。

 筋肥大の目的だけではなく、最大筋力の向上やパワーの向上を目的とする場合であっても選手の連続的なウエイトの使用に対する耐性が高まれば、スプリット・ルーティンを用いることは十分可能である。その場合、1回のワークアウト時間が長くならないように注意する必要がある。

◆スプリット・プログラム

 スプリット・ルーティンが部位や筋群をそれぞれのワークアウトに振り分けて行うのに対して、毎回同じ部位や筋群のトレーニングを行うが、各ワークアウトで用いるエクササイズ種目を変更するという方法がスプリット・プログラムである。

 例えば月・火・木・金と週に4回のセッションを組むが、各曜日に全ての部位や筋群を振り分けるのではなく、脚については毎回行うとする。その場合に、月曜日はフロント・スクワットとランジ、火曜日は内転、外転とスタンディング・カーフレイス、木曜日はレッグプレスとレッグエクテンション&フレクション、そして金曜日がバック・スクワットとシーティッド・カーフレイズを行う。

 ある程度筋肥大や筋力の向上が停滞してきた選手に更なる刺激を与えるには、コアエクササイズに対する十分な強度と量の設定と同時に、補助エクササイズの採用とそれによる刺激が重要な鍵となる。したがって、こうしたスプリット・プログラムを前提としてセッション数を考えることも必要となる。

◆強度の変化 

 スプリット・プログラムが種目を変更することによって連続するワークアウトを可能とするように、強度を変更することでワークアウトを連続させることも可能となる。例えば月・木が上半身、火・金が下半身とした時、月と火をヘビー木と金をライトとすることにより、月と火は5RM×5セット、木と金は10RM×3セットとすることができる。これにより、月と火にかなり強い負荷をかけても連続する翌日のエクササイズが違う部位でなおかつ強度も低いということでオーバートレーニングを防ぐことが可能となるのである。

◆柔軟な頻度設定

 以上のように、頻度は必ずしも週何回、何日おき、というように固定的に考えるのではなく、目的、レベル、強度や量、そしてエクササイズの選択や配列によって柔軟に考えるべきであることが理解いただけたと思う。毎日同じ種目、同じ強度と量、同じ休息時間という前提で、週に何回行うかではなく、強化したい部位、目的に応じた強度と量と休息時間、およびそれらのプログラム変数の組み合わせを変えて頻度を設定することも可能なのである。疲労回復のスピードも、背部や脚部と上半身を比べると、背部や脚部の回復は遅い。こうした点も考慮すると、週に3回のうち、背部の種目数・強度・量の多い日は1回、脚部のコアエクササイズを行う日は2回、そして上半身に関しては3回とも、というようなプログラムによって週3日という頻度を設定していくこともできる(表2)。



 スポーツの技術・戦術練習に加えてパフォーマンス向上や障害予防を目的としてレジスタンス・トレーニングを取り入れようとする場合によく問題になるのがトレーニング時間の確保である。週1回では効果がないので週2回あるいは週3回実施すべきという考えのもと、1回のワークアウトに1時間~1時間半程度を確保しようとしてその結果、技術・戦術練習の時間がなくなるという相談をよく耳にする。この場合はむしろ、セッション数を週4回~6回に増やし、スプリット・ルーティンやスプリット・プログラムを組んで1セッションあたりの時間を20分~30分に減らすという逆の発想も必要である。ただし技術・戦術練習の前後にすぐレジスタンス・トレーニングができる環境が必要ではあるが。