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2018.05.30コラム
第2章役に立たない最大筋力。

スピード筋力トレーニングガイド:役に立たない最大筋力

第2章 役に立たない最大筋力。

 スプリンターがスパイクの裏をトラック上に叩き付けて力を加えている時間は、およそ0.1秒。レベルが高くなるとさらにそれよりも短くなります。

 槍投げ選手が槍に投げるための力を加え始めて手から放たれるまでの時間も0.1秒程度です。砲丸投げでは少し長くなり、およそ0.25秒。跳躍競技では走り高跳びで0.15~0.2秒、バレーボールのスパイクジャンプでは0.2~0.27秒くらいです。

 このように、ほとんどのスポーツの重要な局面で力を発揮する時間は0.1~0.3秒までだということは多くの研究結果からすでに明らかです。

 このように一瞬にして大きな力を発揮する筋力特性を「爆発的筋力」と呼びます。ガスや火薬や噴霧されたガソリンに引火して一気に燃焼するのが爆発です。

 これに対して最大筋力というのは時間無制限です。じわじわと力を立ち上げたその最大値が最大筋力です。あたかも大量の薪に徐々に火が燃え広がって大きな炎となるように筋力はゆっくりと立ち上がります。

 ウエイトトレーニングというと最大筋力向上のことだと思っている人がおられたらここでよく考えて下さい。

 じわじわと発揮できる最大筋力がいくら大きくても、0.1秒、0.2秒といった極めて短時間に発揮できる筋力が小さくては、いくら大きな力を出す能力があっても実際の競技場面では使われずに終わってしまうのです。

 スクワットやベンチプレスの1RM(マックス)の値を最大筋力として捉え、その数値にいつまでもこだわり続けることは、競技場面ではまず使われることのない筋力にこだわっていることになります。

 スクワットやベンチプレスの1RM測定とは、一定の姿勢でどれだけの重量を持ち上げることができるかと言う測定です。ここには、スティッキングポイントと呼ばれる関節角度があり、この箇所を通過できるかどうかで上がるか上がらないかが決まります。

 スティッキングポイントで我慢してここをクリアできればあとは何とかなりますが、この箇所を通過するのに4秒くらいかかってしまうことも稀ではありません。

  こんなに何秒もかけてやっと持ち上げられる1RMを高めることのみに全エネルギーを費やし、多くのトレーニング時間を注ぎ込むことが、わずか0.1秒しかないスプリントの接地時間や時速140キロのボールを迎え打つ一瞬のバッティングにとってどれほどの意味があるでしょうか?