スプリントスピード強化(1) | S&Cスポーツ科学計測テクノロジー スポーツパフォーマンス分析

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2018.05.30コラム
スプリントスピード強化(1)

スプリントスピード強化のトレーニングとタイム計測テクノロジーの活用(1)

最新トレーニング科学【スプリントスピード強化のトレーニングとタイム計測テクノロジーの活用】

長谷川 裕 JATI EXPRESS Vol.34 掲載

◆10mダッシュ2.0秒と1.8秒の差

 ほとんどのスポーツにおいて、速く走るということは極めて重要な課題である。人より速く走れればそれだけで様々な点で有利となる。

 例えば、10mを2.0秒で走れる人と、1.8秒で走れる人が同時にスタートを切ったとする。1.8秒で走れる人が10m地点に到達した瞬間、2.0秒かかる人は10m地点に到達するまでにあとまだ0.2秒かかることになる。10mを2.0秒かかるということは平均速度で秒速5.0mだから、0.2秒で1mの距離を進むことになる。したがって1.8秒で走れる人が10m地点に到達した瞬間に、2.0秒かかる人はあとまだ0.2秒走らなければならないのだから、その距離は秒速5.0m×0.2秒で1m、つまり10m地点で1mの差がついていることになる。

 しかしこれは、最初から一定の平均速度で走った場合の話で、実際には10mスタートダッシュでは秒速0mから徐々に加速していくため、1歩毎にスピードが増す。そのため、1.8秒かかる人が加速して10m地点に到達した瞬間には、2.0秒かかる人の加速はまだそれほど十分ではないため、さらに後方に位置することになる。

◆0.2秒の差ならすべて同じか?

 今、10mのタイムが2.0秒の人と1.8秒の人とを比較したが、もしこれが1.8秒の人と1.6秒の人との差だとしたらどうなるだろうか?同じように0.2秒の差だから、1mの差がつくと考えればいいのだろうか?

 もっと差がつく、というのが正解である。なぜなら1.6秒の人が10m地点に到達した瞬間、1.8秒の人がそこに到達するためにはあとまだ0.2秒かかるわけだから、10m÷1.8秒で計算される平均速度5.55mのスピードでこの0.2秒を進むので、5.55m×0.2秒で1.11m後方にいることになるからだ。

 このようにスプリントタイムの差だけでなく、タイム自体が速くなると、遅い人と速い人との差はさらに広がることになり、レベルが上がれば上がるほど、ちょっとの差が大きな違いとなって現れるのである。

◆実際の差はもっと大きい

 わずか10mの距離であっても、スタートダッシュのタイムが0.2秒違えば簡単に1mくらいの差がついてしまい、速ければ速いほどその差はタイムの差以上に大きくなることがわかった。しかも、平均速度ではなく、実際の加速を加味するとその差はもっと大きくなることも理解して頂けたと思う。

 ではここで実際のデータを見てみよう。図1はあるプロサッカー選手の10mダッシュのビデオによる分析結果を図にしたものである。以下、サッカーの例で説明するが、他のスポーツに置き換えて似たような場面を想定して考えてみていただきたい。



 

図1. 2名のプロサッカー選手の10mダッシュの分析

 

 一方の選手は1.676秒(しかもボールをドリブルして!!)。もう一方の選手は1.856秒。2人のタイム差は0.18秒である。上の例で示した0.2秒よりもさらに小さな差である。しかし10m地点での2人の重心の距離は実に1.44mもあり、後方から追いかける選手の前足と、前方でドリブルしている選手のボールとの距離はもっと大きくなる。

 要するに、たった10m、わずか0.18秒の差であっても、全く話にならないくらいに「置いて行かれる」のである。一瞬の差で相手はどうしようもないところまで行ってしまっているのだ。