スプリントスピード強化(2) | S&Cスポーツ科学計測テクノロジー スポーツパフォーマンス分析

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2018.05.30コラム
スプリントスピード強化(2)

スプリントスピード強化のトレーニングとタイム計測テクノロジーの活用(2)

◆スピードの差を埋める方法

 ではこのような絶対的なスピードの差から生じる距離の差を埋めることができるだろうか、埋められるとすればそれはどのような状況だろうか?

 第一に考えられることは、状況判断から次の展開を予測し、相手よりも先にスタートすることである。そうすれば後から動き出す相手よりも先に移動開始することが可能だ。しかし、実際問題として相手よりも先に動き出せばほとんどの場合相手に裏を取られるだけであり、相手が見ていない場合を除いて上手くいくことはめったにない。

 次に考えられることは、あらかじめ距離を空けておく、または行きたい方向に移動しておくことである。そうすれば、距離が詰まってきても相手に先を越されたり追い越されたりすることはない。しかし、これも実際には機能しないことが多い。例えば、サッカーやバスケットボールの1対1で最初から相手との距離を空けておくと、相手はその距離を使って自由にプレーできる。後方へ「よーいドン」をしたときに負けることがない代わりに、目の前で好きなことをやられるだろう。

 第3に考えられることは、相手のスキルレベルが低い、または判断やプレーが遅い場合である。例えばボールを保持したり受けたりする相手が走った後に行うプレーでミスをしたり、実行に移すのが遅い場合、0.18秒あとから1.44m遅れて追いついたとしても「何とかなる」。

◆スピード差が何とかなる理由

 これほどの絶対的なスピード差があっても、「何とかなっている」場合のほとんどは、このような予測とテクニックの差である。特に「ミスのスポーツ」とさえいわれるようなサッカーでは、プレッシャーをかけ続けさえすれば相手はミスを犯しやすくなり、そのミスが重なるとそれまでのスピードや距離の差はある意味で帳消しとなる。そのため、いきなり失点に結びついたりすることはそれほど多くない。逆に言えば、相手のミスから得点が生まれることもよくあるということ。タッチライン沿いを何回も突破され、えぐられ、何回もクロスを入れられたとしてもGKのファインプレー、クロスのコース、相手プレーヤーの数や位置、シュートミス、ディフェンスの踏ん張りなどで「しのげる」ものである。

 しかし、それは確率論的に言うと「時間の問題」であり、絶対的なスピードの差は、体格や持久力やテクニックや戦術やメンタルが同じだとすると、残念ながらファウル以外で止めることが不可能となり、終わってみたら負けていた、ということになる。

 そして、絶対的なスピードの差をテクニックの差が相乗効果を持てば、スピードの差は単なる時間の差、距離の差以上のものとなり、「スコンスコン」にやられるのを黙って見ているしかなくなるのである。

 サッカーよりもミスの起こりにくい同じ混合型のボールゲームであるバスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボールなどでは、スピードの差がすぐに得点の差となることは容易に想像できるだろう。また、野球やソフトボールのような攻守交代型球技、あるいはバレーボール、テニス、バドミントンなどのネット型スポーツにおいても、目的地点、例えばベースまでいかに速く走れるかという場面では、とにかく速く移動できることは絶対的に有利な条件となるのである。

◆スピードを鍛える

 このようなスポーツにおけるスピード差はわずか100分の1秒を改善するだけでも、決して無駄とはならない。上で見たように、わずかのタイムの違いは大きな距離の差になってしまうことは、逆に言えば、わずかなタイムの短縮によって1歩の距離、身体1つの差、頭ひとつ出るかどうか、相手と自分とどちらの手が先にボールを触るかといった実質的に「大きな」距離の差を改善することにつながるからである

 そこで適切なトレーニングによって、確実にスタートダッシュのスピードを改善し、たとえわずかであっても確実にタイムを短縮することができれば、スポーツ場面でおこるスピードの差によるパフォーマンスの差を、確率論的に見て確実に埋めて行くことが可能となる。そして、1歩の差、身体1つの差、頭ひとつの差、どちらの手が先にボールに触るかという差は、時に勝つか負けるかという決定的な場面においても重大な差をもたらすのである。

 したがって、このようなスポーツにおけるスピードをトレーニングによって向上させることは、きわめて重要なトレーニング目標となる。決して「たかが10m走のちょっとしたタイム差」ではすまないのである。まして集団スポーツでは、チーム全員のスピード差の持つ意味は個人のスピード差の単なる総和以上のものとなるだろう。