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2018.05.30コラム
レジスタンストレーニングの『質』(4)

【パフォーマンス向上のためのレジスタンストレーニングの『質』はリフティングスピードのモニタリングによって向上する】

 

◆大学サッカー選手もリアルタイムフィードバックありのスクワットジャンプパワーを4週間で4%向上

 プロスポーツ選手やトレーニング経験の長い対象者ではなく、レジスタンストレーニングを始めたばかりの大学1年生のサッカー選手でも、同様にリフティングスピードのリアルタイムフィードバックの効果が確かめられている5)。23名の選手を3グループに分け、週に2回、4週間にわたってトレーニングを行った。1つのグループは、30㎏のバーベルで全力でのジャンプスクワットを4セット×6レップ実施させ、リニアポジショントランスデューサーを用いて1レップごとに平均スピードを測り、トレーニングパートナーが口頭でフィードバックした。もう一つのグループは同じ負荷を用いた全力でのジャンプスクワットであったが、スピードフィードバックは行わなかった。3つ目のグループは10RMで10レップ×3セットのトレーニングを行わせた。その結果、フィードバックを受けてジャンプスクワットを実施したグループにのみ4.0%の有意な平均パワーの向上が見られた。

 

◆リフティングスピードのリアルタイムフィードバックでスポーツパフォーマンスも向上

 最後に、スクワットジャンプにおけるピーク速度のリアルタイムフィードバックによってスポーツパフォーマンスにもより良い効果が得られることを示したニュージーランドの研究6)を紹介しよう。

 13名のプロラグビー選手が6週間にわたり、フィードバックあり群となし群に分かれて週3回、プレシーズンのトレーニングを行った。そのうち週2回はスクワットジャンプを40㎏負荷で3レップ×3セット実施した。フィードバックあり群は、1レップごとにバーベルに装着したリニアポジショントランスデューサーから得られたピーク速度をモニターに表示し、その値を選手が視認する方法でリアルタイムに自分が発揮した速度のフィードバックを得た。

 その結果、フィードバック群にのみ垂直跳び(61cmから64cmに増加)と30mスプリント(4.20秒から4.14秒に短縮)において統計的に有意な改善が示された。また、サンプルサイズに依存せずに、実質的に意味のある差なのかどうかを統計的に検定するための指標であるエフェクトサイズ(効果量とも呼ばれ、比較したい2条件の平均値の差をそれらの標準偏差の平均値で除することで得られる)で見ると、30mスプリントにおいて0.46という「中程度」の効果が示された。そして、6週間でスクワットジャンプの発揮速度をフィードバックすることによって効果が得られる統計的確率は、垂直跳びで45%、10mスプリントで65%、20mスプリントで49%、立ち幅跳びで83%、そして30mスプリントで99%と計算された。

 このスピードフィードバックの効果は、実際に行われたトレーニング動作の速度が、フィードバックあり群においていかに高い質で行われたかを確認するときわめて明瞭となる。つまり、セッション毎の発揮スピードの平均値がどの程度ばらついていたか示すICC(級内相関係数)がフィードバックあり群では0.81~0.95ときわめて高い値を示し、発揮速度が安定していたとみなすことができたのに対して、フィードバックなし群では、-0.52~0.14とほとんど相関がなく、毎回のセッション毎に発揮した速度には大きな差(バラツキ)があったことがわかった。

 

◆スピード&パワーの向上とパフォーマンス改善のためのレジスタンストレーニングにおけるリフティングスピードモニタリングの必然性

 以上のことから、スピードとパワーを向上させ、パフォーマンスを改善するために行われるレジスタンストレーニングにおいてはリフティングスピードのモニタリングが必然的に重要であることがご理解頂けたと思う。目標達成のために徹底的にトレーニングの質を高め、選手の動機を高めることが成功のためには不可欠である。最初はほんのわずかの差かもしれないが、1レップごとに全力を発揮させるトレーニングの継続によって、神経-筋系の機能が徐々に改善されて行き、最終的には大きな実質的な差となる。その為には、レジスタンストレーニングにおいて、リフティング動作で発揮されたスピードを測ることが何よりも大切である。

 トレーニング指導の現場でリフティングスピードを測り、モニタリングし、選手にフィードバックすることは、ひと昔と比べてきわめて簡単になっている。スマートフォンで撮影した映像と同期させて1レップ毎の発揮パワーや、スピードや筋力をフォームと関連づけてその場で確認することも、過去のデータと比較することも簡単にできる。

 さらにリフティングスピードの測定機器として、現在最も普及しているリニアポジショントランスデューサーは、近い将来、三軸加速度計と三軸ジャイロスコープに三軸磁気センサーが組み合わさった超小型センサーからバーや身体の動きをワイヤレスにスマートフォンやタブレットにデータ送信するというシステムに取って替わられようとしている。

 今回紹介したようなリフティングスピードのモニタリングのもつ絶大な効果を考えると、パフォーマンス向上のためのレジスタンストレーニングの指導においてリフティングスピードを測る事が当たり前になるのは、もはや時間の問題といえるだろう。

 

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